スンスクの春恋(スンスク) 118
それほど遅い時間でも早い時間でもなかったが、家に帰った時には父のスンジョがリビングで新聞を読んでいた。
「お父さん・・・・」
「今日、仕事が終わったら話したい事があるから、ロイヤルホテルのラウンジで待っている。」
「時間は・・・・」
「18時に来られるか?」
「はい。」
それだけ言うとスンジョは寝室に入って行った。
夜中に家を出て行った事など無いスンスクが、朝帰りをする事を知っていたのか、一晩中起きて待っていた訳でもなく、数十分前に起きて待っていた事が判る室内だった。
自分でコーヒーを淹れて、何を考えていたのかが気になった。
兄のスンリはよく夜中に抜け出して朝帰りをしたり、外泊をした事があったが、そんな時でもスンジョが怒った事はなかった。
その代りハニが玄関で待ち構えて家の中に入れない様に、自分よりも背の高い息子を威嚇するように仁王立ちになり、よく怒っている光景を見た事はあった。
母は、父が起きているのに寝ている事はない。
きっと、父がここに出て来ないように言ったのだろう。
スンスクが担任をしている1クラスでのホームルーム・授業をしていてもいつもよりも強いミラの視線を感じる。
それと同じように娘のミレの視線も混ざっていた。
ミレは勘がいいし、深夜過ぎまで起きている事もある。
もしかしたら、僕が家を出るのを見ていたかもしれない。
「先日の課外授業のレポート提出を返却します。先生のコメントをよく読んで、それを参考にしてもう少し纏めてください。クラス委員のペク・ミレ、これを書いた人に渡してください。」
クラス委員が自分の娘であってはならないと判っていたが、入学した最初のクラス委員は成績で選ばれる事になっていた。
ミレより早く学校に来るから、何を思っているのか知らないし、ミレがそれを知っていたとしても、家に帰ったらきっと聞いて来ると思っていた。
いつもなら学校ではあまり父親である僕の傍に来ない子供だったが、きっとその事を聞き出したくて朝からその機会を待っていたのかもしれない。
「ペク先生、少しクラスの事で相談をしたい事があるのですけど。」
職員室で他の学年の授業前の確認をしていると、ミレが何か難しい顔をして入って来た。
「クラスの事?」
特に誰かがトラブルを起こしたりするクラスではないから、教頭と他の先生もびっくりして顔を上げた。
「応接室を使ってもいいですよ。」
「教頭先生・・・・ありがとうございます・・・・ミレ・・・」
応接室にミレと一緒に入って椅子に向い合せに座ると、いつの間にか大人びた娘の顔に、妻のミラの面影が重なった。
「お父さん・・・・・ミラの事・・・・・どう思っているの?」
「え・・・・・」
その時のミレの顔が、怒っている時の亡き妻と同じ顔だった。
0コメント