スンスクの春恋(スンスク) 122
他愛もない話しをして数時間セイラと過ごしたスンスクは、セイラの自宅まで自分の車を運転して送って行った。
「また会ってくださいますか?」
「セイラさんと僕の時間が合いましたら。」
「私の方が時間に自由が効くので、スンスクさんに合わせますわ。」
なぜ、セイラさんと次に会う約束をしたのだろう。
これが見合いだと判っているのに、会う約束をしてしまったら見合いを受ける事になる。
それでいいのかもしれない。
生を受けてから僕が心を許せた女性は、祖母と母とミラだけだった。
恋愛経験を人に言えるほどもない僕が、人生を掛けて愛した女性がミラだと思っていた。
ミラの病を判っていて、まだ高校生の時に結婚を決意した。
幸せだった。
18歳で遅い初恋に、大学に入ってからすぐに結婚をした。
僕が愛した人だから、彼女の看病を自分一人でしようと思っても、結局は家族の助けを必要とした。
直ぐにミレを妊娠した時は不安もあったけど、ミラを愛したと言う事実があれば万が一の時が早まっても自分は大丈夫だと思った。
最初で最後の夫婦げんかでフィマンを持つことを決意した時、ミラが自分亡き後に僕が寂しがらないように僕と似た男の子を生みたいと言っていた。
フィマンが憎いと思った事はなかったが、思春期に反抗的な態度を取った時、ミラに会いたくて仕方が無かった。
13年間一時も忘れる事のなかったミラを、最近は忘れている時がある。
僕が出会った頃に近い年齢の教え子のミラが、僕の眠っていた人を愛すると言う感情を目覚めさせている。
決して僕の気持ちを人に言ってはいけない。
ミラが僕の奥さんになりたいと言うのは、父親を知らずに成長をしたからのただの憧れだ。
見合いをしてセイラさんと結婚をしたら、きっと僕はセイラさんを愛して行けるだろう。
大丈夫・・・・そのうちに好きになれるから・・・セイラさんを。
自宅に通じる道を上がって行くと、家の前に夜の薄暗い道でも判るくらいに派手な車が停まっていた。
姉のスンハも赤いスポーツタイプの車に乗っているが、今日は実家であるペク家ではなく、自宅で家族で過ごしているはずだ。
スンスクはガレージのシャッターをリモコンで上げて、車をバックでスペースに入れる時にチラッと見えたその人物に『どうして今頃・・・・』と言う考えが浮かんだ。
0コメント