あなたに逢いたくて 21
「救急車を呼んでくれ。気を失っている。」
グミはスンジョの言葉で救急車を手配した。
スンジョの腕の中で意識を失っているハニは、思っている以上に軽く細くなっていた。
ひと月前までは抱き寄せると、ふんわりと柔らかくて温かかった身体が、今は身体も冷たく力がなかった。
「お兄ちゃん・・・僕は何したら良い?」
「ママが病院に行く用意をしている時に、お店に行っているギドンおじさんに連絡をしてくれ。」
スンジョはハニの名前を呼んだ。
何度も何度も名前を呼んでも、まるで死んでいるように目を閉じた青い顔はピクリとも動かない。
ハニは聞こえていた、スンジョが必死に自分を呼ぶ声が・・・・・
心の声でハニはスンジョに話していた、
あなたに逢いたくて 逢いたくて
逢えない日は寂しくて
貴方を諦める事が出来なくて
眠れない日が続いた
眠れないそんな夜は・・・
あなたが抱いてくれた温もりを
その温もりを 思い出し・・・・
そっと瞳を 閉じたの
スンジョに伝わったのか判らないままそんな心の言葉さえも声に出して言えないまま、救急車が到着するとグミが自分が付き添うと申し出た。
ハニの親であるギドンもいなく、誰も付き添わない訳にはいかないからと救急車に一緒に乗り込ませてもらえた。
スチャンが倒れてからずっとグミが不在の家を守ってくれたハニが倒れたのに、そのままでいる気持にもなれず、スンジョはウンジョと一緒に車で、搬送先であるパラン大病院まで後を追った。
救急処置室に、意識が無いままのハニが運び込まれると、まるでスンジョ達から引き離される様にドアが音を立てて閉まった。
三人が出来る事は、廊下のソファーでただ黙って待って祈るだけだった。
「お兄ちゃん・・・・ハニちゃんがこんなになってもまだ、気持ちは変わらないの?ママは情けないわ。結婚を約束しておいて、会社の為だとか言ってあっさりと捨てて、こんなに冷たい子に育てたつもりはなかったのに・・・・・パパもママも、スンジョに勉強の事も普段の行いも何も言わなかったのは、スンジョは大人が心配しなくても間違いを起こす子じゃないと信じていたからよ・・・・・」
グミの言葉にスンジョは何も言い返すことは出来なかった。
余程慌てていたのか、息を切らしてギドンが廊下を走って来た。
「奥さん・・・・・・スンジョ君・・・・ご迷惑をかけて申し訳ありません。」
「ギドンさん・・・・私ったら何もかも家の事を任せたばかりに・・・・・大切なハニちゃんが倒れるまで気が付かないで・・・・・・・」
ギドンはスンジョと目を合わせようとしない。
スンジョも、結婚をさせて欲しいと言った矢先に、融資先の孫娘と見合いをして、ハニを捨てた形になったことに、後ろめたさがあり合わせる顔がなかった。
「後は大丈夫ですから、ワシが来たので後は大丈夫ですから・・・・スンジョ君もウンジョ君も折角来たのだからお父さんの所に行って来なさい。ハニにはワシが付き添いますから・・・・・」
ギドンの言葉は、スンジョをハニの側にいて欲しくないと取れるくらい、恨むことも憎むことも出来ずに苦しげだった。
グミもスンジョもウンジョも、誰もいない廊下でポツンと座っていると、静かに処置室のドアが開き看護師が出て来た。
「オ・ハニさんのご家族の方ですか?」
「はい・・・・ハニは・・娘は・・・・」
看護師がニッコリ笑って中に入るように合図をした。
「気が付かれましたよ。まだ、点滴を打っているので動けませんが、先生がお話があるそうなので、お父様も一緒にお聞きください。」
病気一つしたことのない娘が細くなった腕に点滴をされている姿を見て、亡くした妻と重ね合わせてしまった。
「パパ・・・・・」
「ハニ・・・・大丈夫か?」
弱々しい顔で必死に笑おうとする娘を見て、気が付いた事に安心したのか涙が出て来た。
「お父様、娘さんを担当しましたパク・ソンヒです。どうぞ、お掛けになってください。」
椅子に座るよう勧められて、ベッド近くに用意された椅子に座った。
「心配するほどではないのですが、精神的に大きなショックを受けた為の貧血と嘔吐です。お父様は御存知では無いですよね?娘さん、妊娠しています。」
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