スンスクの春恋(スンスク) 134
真っ暗な景福宮
とっくに見学時間は終わっているのだから、そこには誰もいるはずがない。
自分とミラとの距離が近くなったのは、課外授業で訪れたこの場所で、体調を悪くしたミラを学校の医務室まで連れて行く事になったのもこの場所。
景福宮の出口専用ゲート近くのトイレに人が騒いでいた。
まさか・・・・と言う気持ちでスンスクは走って行くと、女子トイレで何かあったのか、誰かが叫んでいた。
「何かあったのですか?」
「高校生くらいの女の子が、手首を切って・・・・・今、救急隊が入っていったのです。」
「高校生くらいの女の子?」
直感でミラではないかと思ったが、さすがに教え子かも知れないと言って入るわけにはいかなかった。
ミラではない可能性もあるから。
中で手首を切ったとされる女の子が運び出されるまでの数分が、僅かな時間かも知れないがスンスクにしたら長い時間のような気がした。
どうか、ミレの友達のミラじゃない様に・・・・
目を瞑って両手をギュッと握って、救急隊が出て来るのを待った。
「出て来たわ・・・・」
傍で中の様子を見ていた女性が声を挙げた。
担架に乗っている女の子が片方の手は胸の上で応急処置を受けた状態に置かれ、もう片方の手は顔を隠していた。
顔を隠していても、そこから出ている部分でそれがミラだと直ぐに気がついた。
「す・・・すみません・・あの・・・」
「お知り合いですか?」
「その子を探していた、学校の担任です。」
その声が聞こえたのか、ミラの身体がピクリと動いた。
「先生・・・・・・・」
「一緒に乗ってください。」
スンスクは救急隊と一緒に、言われるがまま救急車に乗った。
「ミラ・・・お母さんが家で心配して待っているよ。どうして・・・・」
ミラは唇をギュッと噛んで、泣きたいのを我慢しているみたいだった。
「病院はどこに・・・・」
「ここから一番近い病院に行きます。」
まさか父や兄妹が関係している病院に行って欲しいとは言いたくなかった。
出来れば小さな病院で、ミラが落ち着くまで傍にいて家に送り届けたい。
どうしてこんな事をしたのか、何があったのか・・・・と聞いてもいいのか判らなかった。
スンスクはミラが顔を隠している手を安心させるように握った。
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