スンスクの春恋(スンスク) 137
「君の事を確かに好きだった。ただ、それは恋愛感情ではなくて、妻と同姓同名で、どことなく顔が似ていたから・・・・」
自分にとって絶望的な気持ちの夕方から、治療が終わってスンスクの告白を聞いて天国になったと思ったら、すぐに現実に引き戻された気持ち。
「君のお母さんが入院をして『夜が怖くて』と連絡をくれた時、あの時まで君に恋をしていると思っていた。寝顔を見ているうちに、自分の娘のミレと重なったんだ。明け方、まだ陽が上がる前に君の家を出て、奥さんのお墓に行った。時々、誰かに相談したくなると行くんだよ。悩んでいる時に奥さんのお墓に行くと、声が聞こえて来る。それまでは『スンスク、もう一度恋をして・・・』と言っていた声が聞こえていたから、真剣に君と恋愛をしようと思った時期もあった。でも、その時は奥さんの言葉はこうだった・・・・・」
ミラはベッドで横になっているから倒れる事はなかったが、立っていたら身体の力が全て抜けて倒れてしまいそうだった。
「『スンスク、今あなたが想っている好きと言う気持ちは、恋とは違う。どちらかが傷つくような恋はしないで、あなたをずっと想い続けている人がいるの。その人は中学生の時から、ずっとスンスクを想い続けているの』それが、君が今日見たあの女の人だよ。」
「先生はあの女の人が好きなの?」
「判らない・・・判らないけど、心が落ち着くんだ。」
好きなのかどうか判らないし、結婚するとは限らないかもしれない。
自分の事を奥さんと同姓同名で、顔が似ていたからと言っていた先生を、もしかしたらまた自分の方を向いてくれるかもしれないとミラは思った。
が、スンスクが言った言葉は違っていた。
「先生のお父さんも、お母さんを最初は好きじゃなかったけど、事情があってずっと一緒に暮らしていたから、時間を掛けて理解するようになった。人の気持ちは親子でも同じではない。父親と似ているからと言って、先生もその人の事がそのうちに好きになるのかは判らないけど、人の気持ちなんて今は何も気持ちが無くても明日には判らない。その女性と先生が見合いをして、数回お付き合いしてもその人と結婚するか判らない。でも、あの女性と会う機会を作ってくれた父親が、先生と同じタイプの女性だからね・・・・好きになる人は。」
「どういう事ですか?」
「ペク家って言うのか、先生のお父さんも兄弟も初恋の女性が、先生のお母さんなんだ。みんなお母さんと似ている人を好きになっている・・・初恋って、ただの憧れみたいなところもあるからね。ミラも先生の奥さんになりたいって言ったけど、もしかしたら初恋なのかもしれない。うんと年上の人を好きになるかもしれないけど、もっと素敵な人と年相応の恋愛をして欲しい。それが先生に言える君への想いだよ。」
スンスクにはそれしか言えなかった。
まだこれからたくさんの事を覚えて欲しい。
いい事ばかりじゃないこの世の中に、その綺麗な心のままで、いつか訪れるだろう運命の人と恋愛をして欲しい。
自分の両親のように、いつまでも幸せでいてくれる事が、ミラと同じ名前の自分の教え子に願う言葉だった。
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