スンスクの春恋(スンスク) 142
スンスクからミラの生い立ちを聞いて、ショックでミレは言葉が出なかった。
父が早くに結婚をして、母が病気で幼稚園に入ったばかりの時に亡くなって。
母親を早くに亡くして寂しかったけど、祖母のハニが一生懸命に自分と弟を寂しがらないようにと可愛がってくれた。
それは、祖母も早くに母親を亡くしたから、自分と同じ様に寂しく思うからそうしているのだと言っていた。
でも、ミラは違っていた。
母とふたりでずっと暮らしていて、時々訪れるおじさんがいる事は知っていたが、ひとりでそんな自分の生い立ちを心の奥に閉じ込めていた事に、衝撃を受けた。
「お父さん・・・・私ね・・・小さい頃から、いつも友達を羨ましく思っていた・・・・」
大きな目から大きな涙がポロポロと流れて来た。
ミレは決して泣かない女の子だった。
それは、他の友達の父親よりも若い父親の僕が、母親代わりもしながら育てている事を知っているから泣かなかったのもあるし、大きくなったらお母さんの代わりになると、ミラの葬儀の時にそうフィマンと僕を抱きしめて親の僕を元気づけていたから。
泣かない子供じゃなくて、泣けない子供になったあの日から一度もミレは涙を見せなかった。
「お母さんと一緒に歩いている同じ年くらいの女の子を見て羨ましかったし、学校に行った時にお母さんに髪の毛を結んでもらったと言っているのを聞いて羨ましいと思っていた。お父さんが、大学生になって割と早く私が生まれたから、どこかに遊びに連れて行ってもらえないし、フィマンが生まれた時もまだお父さんが大学に通っていたし・・・・・でも、ミラは・・・・そんな小さな事じゃなくて・・・・・」
「でも、それだから可哀想と同情しても、ミラは返って気にすると思う。むしろ、普通にしていてあげた方がいい。お父さんがミラの生い立ちと、手首を切ったことを話したのは、決してミレの責任だけじゃなくて、お父さんも関係しているかもしれないし、自分の生い立ちも関係しているかもしれない・・・・そのことで、悩んでどうしていいのかきっと判らなくなったのだと思う。」
「今日、ミラに会いに行こうかな・・・・」
「やめておいた方がいいよ。今日は一日、ミラはお母さんとパク・ジオンさんと過ごしているはずだから。」
授業が始まる予鈴が聞こえてきた。
スンスクは、ミレの顔に流れている涙をハンカチで拭いた。
「さぁ、笑顔で授業を受けていらっしゃい。ミレのお母さんは、ミレに未来を託したのだから、お母さんに良く似たその顔で、お父さんはいつも君に笑っていて欲しいよ。」
コクンとミレは頷くと、椅子から立ち上がった。
「ねぇ、お父さん。」
「ん?」
「お母さんの事、今でも好き?」
「好きだよ。お父さんが一番大切にしたいと思う女性だよ。」
「この間いた女の人は?」
「セイラ?セイラは、お母さんが願った通りに、もう一度恋をしてみてもいいと思える素敵な女性だよ。きっとミレもフィマンも好きになれると思う・・・・・おじいちゃんが選んでくれた女性に、間違いはないから。」
それが、スンスクにもミレにも、スンジョが選んだ女性がハニだと判っているから、理解できる言葉だった。
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