スンスクの春恋(スンスク) 144
ミラ、今日セイラさんをこの家に連れて来るよ。
君が気に入ってくれるのが一番僕は嬉しい。
彼女には、僕とミラの出会いから別れまで全部話して、今までも何度かお見合いをしたけど、ミラを忘れる事が出来なくて会わないどころか写真さえ見ないで自分から断っていた事も話した。
それでも僕でいいですか?と聞いたよ。
「素敵なふたりですね。ミラさんを悲しませないように、精一杯私がスンスクさんを愛します。」
まるでプロポーズのようなセイラの言葉に、もう人を好きになる事はないと思っていたけど僕はこの言葉で二度目の恋をした。
でも、今までで一番幸せだったのは、ミラと過ごした短い結婚生活。
ミラの晩年が僕の人生で一番幸せだったかもしれない。
人に話せば、大変な時に?と聞かれるけど、あの時は僕とミラのふたりだけの時間だった時が多かったから。
ミラが僕を見る目は、僕を信頼している目だった。
四つも年下の僕を信頼して全てを任せてくれたから、どんなにミラの病気が進行しても頑張れた。
でも、本当は怖かったよ。
君が長く生きられない事は、最初から判っていたから。
それを知って結婚したけど、ミラを宿した時に服薬を止めなければいけなかった時。
最初で最後の喧嘩で、もう一人子供が欲しいと言った時。
その2回の妊娠よりも、フィマンを生んで目を覚まさなかった時が一番怖かった。
「セイラさん、どうぞ。」
「ありがとう。」
スンスクは家族と約束したホテルのロータリーに車を停めると、助手席側のドアを開けてセイラをエスコートした。
「ねぇスンスクさん、私の事を『さん』付けで呼ばなくてもいいですよ。」
「でも・・・・・」
「判っているわ。恩師の娘だから、『さん』付けで呼ぶのよね。でもね、私はスンスクさんの婚約者になったのだし、年下の私に『さん』付けはおかしいわ。」
「セイラ・・・・」
「はい。」
セイラの後にミラの影が見えた。
こちらを向いて優しい顔で笑っていた。
今度こそ、幸せになってね
私は淋しくないよ
スンスクが笑ってくれて、ミレが優しい女の子になって、フィマンがスンスクとよく似た穏やかな子供になってくれたから
ミラの声が風に乗ってそう言っているのが聞こえた。
いつまでも過去を思っていてはいけない。
前を向いて未来に向かって歩いて行かなければ。
ミレ(未来)とフィマン(希望)が、ミラと僕の願いだから。
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