スンスクの春恋(スンスク) 154
「先生、私の為に急な転勤になってすみませんでした。」
「君の所為じゃないよ。先生は幼稚園の時から大学までだけじゃなく教師になってからもパランで育ったから、他の学校で授業をしてみるのもいいともって話が出た時に受けただけだよ。でも結局パランの関係の学校だったけど。」
お父さんはミラの事をまだ好きだ。 でも、それは特別な人への思いではなくて、生徒としてのミラを好きなのだと思った。 「先生、幸せになってね。」
「ミレも、アメリカで元気に暮らすんだよ。それと、夢を実現するためには自分の殻に閉じこもるのではなくて、自分の殻から抜け出せば心情も判るようになるよ。」
スンスクは少し大人になった感じのするミラが、母と一緒に学校を去っていく姿を見送った。
自分も前に進まなければいけない。
亡くした妻を想い続けた13年間は、高校生時代のスンスクと変わりがないと思っていた。
自分の隣に立っているミレは、もう高校1年生。 あと数年で、自分がミラと出会った高校生になる。
「お父さん、急な転勤が決まってセイラさんにはどう言うの?」
「すべてを話すよ。ミレ・・・お父さんがパラン高校に戻って来るまで、フィマンを頼むよ。」
「大丈夫。心配しないで。おばあちゃんとグミおばあちゃんがいるから、安心して・・・・」
「頼って相談をするなら・・・おばあちゃんとグミおばあちゃんじゃなくて、おじいちゃんの方がいいと思うけど、おじいちゃんも最近は疲れているみたいだから・・・・・」
病院を辞めて家にいる事が多くなっても、いつも何か本を開いて常に勉強をしている父の姿をよく見ていた。
そんな父に母が一生懸命に何かをして失敗をしても、父は何も言わず母にしか見せない優しい笑顔を向けていた。
いつまで経っても少女のような母に、いつもいい夫でいようとして無理をしている父が心配だが、母や祖母に置いて行く二人の子供を頼むほうが、もっと父に負担がかかる。
ミレもフィマンも自分の事は小さい頃から自分でこなしていた。
一時、反抗していたフィマンも、最近は生まれた頃から面倒を見てくれていたグミの傍に付いている。
祖母が離れの自分の部屋に休んだ後に、父と母と息子のフィマンに転勤の話を言う事にした。
「お父さん、ミラの夢って何なの?」
「小説家になる事だと言っていたよ。ミレは将来の事はもう考えているの?」
「スンミおばさんのような仕事をしたい。」
「スンミのような仕事って・・・・」
「うん・・・海外の発展途上の国に行って、両親を亡くした子供や親が行方不明になって飢えで苦しんでいる子供を助けたいの。苦労知らずで育った私には無理かなぁ・・・・・」
自分で見つけた夢を語れる位に成長した娘が、急に遠くに行ってしまうような気がした。
「いいよ。ペク家は、子供の進路について親が反対をする家じゃないから、自分が正しいと信じた道を、まっすぐ進んで行きなさい。スンミおばさんに話を聞いて、もっと知識を広げていくといいよ。」
ミラはこんな風に子供が親の手元から去っていく時に、僕が寂しくなってしまわない様に、もう一度恋をして欲しかったのかもしれない。
ミラはこの世界からいなくなっても、僕の心配ばかりしているんだね。
大丈夫だよ。
セイラは君の子供の母親になる為に、自分の子供は持たないと言ってくれるくらいに、いい母親になろうとしてくれている。
でも、僕はミラが二人の子供を僕の為に生んでくれたから、彼女にはミラの代わりに生きて母親として僕と生涯を共にできるようにしようと思う。
「お父さん、ここで私を降ろしてくれる?転勤の事は、セイラさんに先に教えてあげた方がいいでしょ?」
「そうだね。おじいちゃんたちには、お父さんから話すから。フィマンにも言わなくていいよ、その時に一緒にいてもらうから。」
成長と共にミラに似て来た娘は、本当にいい娘に育った。
僕は、新しい人生を歩むけど、君が生んだ娘の成長はずっと見守っていくよ。
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