スンスクの春恋(スンスク) 155

ダウンライトの下で家族が向かい合って座るのはいつ以来だろう。 

ミレの幼稚園入園式から帰って帰宅したあの日の夜、斎場から一時帰宅をしてミラの棺に入れる物を取りに来た時、誰もいないリビングのこのソファーで一人物思いに浸っていた。 

あの時は、遂にこの日が来てしまったと言う絶望感で胸が押しつぶされそうで涙さえ出て来なかった。 


「そうか・・・・」

 「スンジョ君、そうかって・・・だってあの時はただミラちゃんの傍にいただけなのに・・・・」 

「そう言っても、大人であるスンスクがそれを言ったらミラちゃんが傷つくだろう。何もなくても、他の生徒たちにその話が伝わったらもっと居ずらくなるだろう。」

 何もなかったわけじゃないが、僕はそれをもう誰にも言わない。

 言わなくてもお父さんは気が付いているだろうし、それをお母さんに言ったりしない。

 言ってしまえば、またお母さんは大騒ぎをして事を大きくしかねないし、まだ中学生のフィマンの耳に入れていい事ではないから。  


「お父さんとはもう会えないの?」 

「会えるよ。遠い所と言えば遠いけど、週末には難しいけど、長期休暇には帰って来られるから。」

 「セイラさんには話したの?それと、ソン教授には・・・・」

 「話したよ。で・・・ソン教授とも直接話をして、夏休みに入ってなるべく早い時期に身内だけで結婚式を挙げたらどうかと。」

 「そうだな。セイラのご両親の都合に合わせた方がいいだろう。うちは国内にいる兄妹とおばあちゃんは時間が取れるから、スンミとスングには事後報告だけでいい。」 


 ミレは小さい頃からしっかりとしている子供だから、特に顔に不安な様子を見せたりはしていないが、フィマンはたった一人の親である僕がいなくなるのだと言う事が寂しいのだろう。

 簡単な転勤報告をして、早々に荷物をまとめる為に部屋に入って、その中をグルッと見回すと、まだそこにはミラとの思い出が沢山あった。

 沢山あると言うよりも、何も片付けていなかった。 

ミラが死んでから、ずっとそのままにしてある医療用のベッドに車椅子。

 ドレッサーはミレが高校に上がった時に、お母さんが使っていた物だから欲しいと言って、自分の部屋に持って行った。 

クローゼットの中にある洋服の殆どは、結婚してからしつらえた物ばかり。


 着替えがしやすい事を優先して用意したから、みんな前開きの物ばかり。

 「おしゃれ・・・・したかったよな・・・・・」 

元気な頃に着ていた洋服は、実家に置いて結婚した。 

クローゼットに掛けられた洋服は、もうミラの香りは消えていた。

 数年だけの結婚生活で、どれだけ彼女が幸せだと思っていてくれたのか、いつも僕はそれを考えていた。


カッターシャツとスーツにネクタイ。 

私服としている洋服と、下着や靴下類等キャリーバックに詰める物と、業者に頼んで運んでもらう物と簡単に分けた。 

クローゼットの一番奥に掛けられたジャケット。

 ミラの実家に結婚を許してもらうために着て行ったジャケット。 

まだ高校生だったから、兄のスンリに付いて行ってもらって買った記念のジャケット。 


「これは置いて行こう・・・・・・ん?・・・・」

 ジャケットのポケットの中に何か入っていた。 縁の色が変色した便箋が入っていた。 

「はは・・・・原稿だ。」 

ミラの両親に言う言葉を書いてポケットに入れたままになっていた。 

たしか、これはミラに渡したはずだった。 

クリーニングにも出して洗ってあったのに、どうしてここに入っているのだろう。 

きっとミラが、あの時の事を思い出した時に、ポケットに入れて忘れていたのかもしれない。 

「大丈夫だよ。僕が初めて愛した女性は、ミラだけだから。でも、ミラが許してくれたセイラと幸せになるから、見守ってくれよ。」

 またその紙を丁寧に畳んでポケットの中に戻した。 




ハニー's Room

スンジョだけしか好きになれないハニと、ハニの前でしか本当の自分になれないスンジョの物語は、永遠の私達の夢恋物語

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