あなたに逢いたくて 27
お洒落な落ち着いた雰囲気のカフェに、ヘラと向かい合って座っているスンジョ。
二人が揃って座ると、ドラマのワンシーンのように綺麗だった。
綺麗でお似合いの二人でも、何かお互い話しながら静かにコーヒーを飲んでいるように見えた。
それでも、どこか遠くを見て頷いているスンジョは、向かい側にいるヘラの話しに無関心のように見える。
今日はハニがソウルを発つ日。
それが気になり、ヘラと婚約や結婚に向けての話も頭に入らない。
ヘラはそんなスンジョに、ため息を吐きながら聞いた。
「指輪の話より、何か気になることでもあるの?」
「あ・・・・ゴメン・・・雨が降ってきたなぁと思っていただけだ。」
雨などもうずっと前、この店に入ってからずっと降っていた。
ヘラはそんなスンジョにフッと笑って、何かスンジョの心を見透かしてでもいるかのように見えた。
「違うよね・・・・・・」
「えっ?」
「ハニでしょ・・・・・学校にいるときに聞いたのよ。大学を辞めて、今日田舎のおばあさんの所に行くとみんなが話しているのを聞いたわ。」
心を閉ざして、誰にも見せない様にしていても、ヘラには見透かされてしまう。
「私・・・・知っていたわよ。あなた達が付き合っていたのを・・・・・あなたはハニを鬱陶しがっていたけど、結構そうして振り払うようにしていても楽しそうだったし、隙だらけだったわ。完璧なあなたは本当に理想的で好きだけど、一番魅力を感じたのは隙だらけのペク・スンジョよ。」
ヘラはそう言いながらテーブルの上のスンジョの手に触れようとしたが、スンジョは手をスッと引いた。
「隙があったペク・スンジョは人間味があってよかったわ。そんなあなたをハニから奪い取りたかった・・・・・・・今までは欲しい物は望まなくても簡単に手中に来たけど、奪いたいと思ったのは初めて。でもそれは間違いだって判っているのよね。あなたとハニは二人揃って完璧だったのよ。お互いを必要として欠けている部分を補いあっているのよ。落ち着いていて思慮深く見えても、ただの抜け殻のような今のあなたには、私には全く魅力を感じないわ。」
「ヘラ・・・・・」
「さあ・・・・・行きなさいよ、ハニの所へ。多分彼女の乗る電車はあと30分後に出発するはずよ。」
席を立ち上がろうとしない、項垂れているスンジョ。
「オレはハニを傷付けたし、捨てた男だ・・・・・」
ヘラはイライラするように飲んでいたカップを、大きな音を立てて置いて立ち上がる。
「あー!わかんない男ね。自分をさらけ出せる人の所に行って!私はあなたに興味がなくなったの。それにハニはあなたに捨てられたなんて思ってないと思うわ。太陽の周りを周る地球はずっと離れないもの・・・・・・・それじゃあ、さようなら。おじい様には私から断りを入れるわね。」
ヘラはそう言って店を出て行った。
一人残されたスンジョは暫くジッと座っていたが、思い立ったように立ち上がり、店を飛び出した。
先ほどまでの雨よりも降りは更に強くなり、思うように走ることが出来ない。
それでもスンジョはただひたすらハニのいるはずの駅に向かって走った。
間に合わなくても合っても、最後に言葉を掛けたい。
抱きしめて、キスをしてハニに言いたいことがある。
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