あなたに逢いたくて 28
またオレの中で、ひとつ歯車がガタンと音がしてずれた。
微妙な所でなんとか動いているようだが、今にも完全に外れてしまいそうだ。
ヘラに言われて、ようやく自分の気持ちに気付いた。
オレは今まで完璧だと思っていたことが、本当はそうじゃなかった。
ハニと出会って、磁石のように引かれて欠けていたものが何かやっと知る事が出来た。
人として一番必要な事で、普通の人にはそれほど難しい物でもない、相手や人を思いやり感謝をする事。
ハニの中でそれは、99%を占めているのに、オレの中では1%も占めていない。
雨に服が濡れて、いい大人のオレがみすぼらしく見えても、それを見ている人の視線など気にしていられないし、気にもならない。
ハニが、自分を捨てたオレを許してくれなくても、自分にはハニ以外は考えられないし、ハニ以外愛することは出来ない。
人混みでごった返している駅の構内に、ハニの姿を一瞬見つける事が出来た。
それでも夕方の駅は週末の夕方で混雑していて、あっという間に、小柄なハニを見失ってしまうと探し出せない。
ごった返す人の流れに逆らうように、人の間を縫うようにハニの見えなくなった姿を追うようにホームに向かう。
ヘラから聞いた、ハニの乗るはずの電車の発車の時間まであとわずかだ。
雨で濡れた服が重く冷たく感じ、すれ違う人の傘で足をすくわれてバランスを崩して転びそうになる。
見失ったハニをやっと見つけた時、スンジョが辿り着いたホームは、ハニの乗る電車の反対側のホーム。
一瞬、ハニの目と合い見つめ合ったが、ホームに入って来た電車にハニはそのまま乗ってしまった。
電車の停車時間は僅か5分。
発車時間を伝える案内アナウンスなど耳に入らない。
急いで反対側のホームにスンジョは行くが、行った頃には電車は走り出していた。
ハニが乗った辺りの車両を必死に探しても、焦るだけで姿を見つからない。
声に出してハニを呼んでも、ハニがどこにいるのか判らない。
動き始めた電車のスピードが上がった時に、やっとハニを見つける事が出来てその顔を見る事が出来た。
ハニは目にいっぱい涙をためていたが、必死に堪えて笑顔でスンジョに別れの言葉を言っているのが読み取れた。
「ハニ・・・・・・・・」
「スンジョ君・・・ありがとう・・・・・」
ハニは最後にスンジョに会えることが出来て嬉しかった。
もう二度と会うことができないし声も聞くこともないが、大好きなスンジョが自分を探しに来てくれたことは一生忘れないで暮らして行けると思った。
そっとお腹に手をやり、元気に動いている子供に囁きかけた。
「ごめんね、オンマがアッパとあなたを離しちゃったね。これからはオンマと二人で幸せになろうね。」
ハニはそう言って、バックの中から小さな箱を出してペアの指輪のうち一つを自分の左の薬指にはめた。
ずっと一緒にいることが出来なかった愛しい人以外、もう誰も愛さない証として・・・・・・・
「スンジョ・・・どうしたの・・・ずぶ濡れじゃない・・・・」
「スンジョ、何があったんだ。さっきユン会長から電話があって縁談は無くなった・・・・・スンジョ・・・スンジョどうした?」
スンジョは壁にもたれてズルズルと滑るように崩れた。
「もう・・・・・・終わったんだ・・・・・」
「お兄ちゃん!スンジョ!早く着替えなさい、風邪をひくわよ、スンジョ・・・・・」
スンジョはその日の夜から高熱で。一週間ずっと目覚めることなくベッドで過ごした。
夢の中でひたすら去って行くハニを探していたのか、うわ言でハニを呼び続けていた。
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