あなたに逢いたくて 29
「キム先生!ちゃんと、私の曾孫(ひまご)を取り上げてくれよ!」
何処かハニの父ギドンに似た年老いた女性、パク・ギミはハニの祖母。
ギミは、人口100人もいない島の診療所の家主だ。
老人ばかりで、未婚の若い人はハニと公衆保険医師として赴任しているキム・ジョンスの二人だけ。
「無理です、僕は内科医なんですから・・・・老人ばかりの島で健康管理をするだけでいいと聞いていたのですから・・妊婦がいるなら来ませんでしたよ。」
ジョンスはメガネをかけて、見たからにひ弱な感じの医者の息子で、軍務として赴任している。
あがり症で失敗続きのジョンスは、老人ばかりの島の中にいる明るいハニに好意を持っていた。
「そんなに言うなら、うちの可愛い孫の再婚相手に推薦しないからね!」
「ギミさん、湯を沸かしたけどまだいるかね?」
「スエさん、すまないねぇ沢山頼むよ。綺麗なタオルも用意しといてくれ。」
島に住む女性総出で、何十年ぶりかの出産が始まった。
ギドンの母は、若い頃は田舎の診療所を転々として、何人もの子供を取り上げていた。
ジョンスよりも出産に関してはベテランだった。
そして最後になるだろう、可愛い孫娘の出産に助産婦として立ち会っていた。
「ハニ、頑張るんだよ。少し頭が見えて来ているから。キム先生、診察台がお産用じゃなくて小さいから、赤ん坊が出て来たら落とさないように頼むよ。」
ハニは陣痛が始まってからすでに二日目を迎えていた。
初めてのお産で何度も陣痛が遠のいたり近づいたり繰り返して、かなり体力が消耗して来ていた。
「ギミさん、破水しました。」
「判った!もう出て来るはずだから・・・・スエさん・・・もうすぐだから!ハニ、眠ったらいけないよ。頭が出たら後は楽になるから。」
ハニは島の太陽だった。
老人ばかりで、若い人たちは島を出て行き、明るい未来など見る事も語る事もしない暗い雰囲気の中で、コロコロとよく笑い、誰とでも気軽に話をしているのを見るだけでも元気になれる気がする。
嶋に来た理由は誰も尋ねたりはしないが、結婚してすぐに夫に先立たれたと、誰もがそう思っている。
ギミも特に本当の事を聞く気にも言う気にもならなかったが、ハニが心に何か秘めた想いがあることは判っていた。
「お・・・・・おばあちゃ・・・ん・・・んっ・・」
ハニがグッと力んだ時に頭が出てくると、その後すぐに元気な産声が聞こえた。
「よくやった、頑張ったなハニ・・・・・キム先生、付いているか?付いていないか?」
「え?・・・・・えっと・・・・・付いていないです。女の子です。」
「計測!スエさんが用意してくれたはかりに乗せて体重を測ったら、そのままメジャーで頭から足までを続けて測るんだよ。ほら!サッサとするっ!」
口は悪いが、孫娘には甘いギミは、出産を終えて疲れ切ったハニの顔を温かいおしぼりで優しく拭いていた。
「スエさんが今、赤ちゃんを綺麗にしてくれているから。」
荒い息をしているハニに優しく声をかけると、ハニはコクンと頷いた。
「綺麗な顔をした女の子だったよ。ギドンに連絡してくるから楽にしているんだよ。」
ギミと入れ違いに、真新しい産着に包まれた産まれたばかりの子供を、スエさんが連れて来てくれた。
「ハニちゃん、綺麗な顔した子供だよ。さすが、ハニちゃんがソウルで育っただけあるね。さあ抱いておやり。」
スエさんは、ハニに産まれたばかりの子供を抱かせた。
「やっと会えたね・・・・・・私がオンマだよ。これからよろしくね。」
ハニが小さな頬にそっと触れると、その指の方に小さな顔を向けた。
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