あなたに逢いたくて 30
「ギドン・・・結婚の約束をしていたのに、本当にハニちゃんには申し訳なかった。ワシが倒れなきゃ・・・」
スチャンはグミとスンジョと三人で、ペク家を出た後ハニがギドンの田舎に行ったことに謝る為にギドンの店に来ていた。
「スチャン・・・お前が倒れたことと、ハニが田舎に帰ったことは関係ないんだ。」
「ギドンさん、スンジョにハニちゃんの住んでいる所を教えていただけませんか?」
ハニとホームで別れてから約四か月。
ギドンの目からもスンジョがやつれて、心がぽっかり穴が開いた様にどこか遠くを見ている眼に心を痛めた。
21にもなった青年が、親と一緒に別れた女の子の場所を聞きに来るのは、以前のスンジョからはとても想像も出来なかった。
「すみません・・・・おじさん。ハニがいなくなって初めて、自分が何をしたいのか、自分がどうして行きたいのか、自分の目標が見つけられなくて。」
厨房の奥から店内の様子が気になるのかジュングが落ち着かなくしていた。
夕方の仕込みをしながら、時々手を止めているのを兄弟子に注意されている。
ジュングは、スンジョがしゃべり始めた時、我慢の限界だったのか、仕込をしていた手を止めて店内まで出て来た。
「勝手なことぬかすな、この冷徹男・・・・・・」
「ジュング、お前は関係ないのだから出てくるな。」
ジュングは自分がハニを好きだった期間、ずっとハニもスンジョを好きだったことを知っているだけに、傷付いた心でソウルを発ったハニを思うとスンジョが許せなかった。
「マスター言わせてもらいますよ・・・・おい!ペク・スンジョ!ハニはな・・・・ハニは・・・・・どんなにお前が冷たくしても一途にお前を思い、お前だけを見て来たんだ。それなのに・・・ハニを弄んで・・・・・・・にん・・・・・」
「ジュング!!!奥に行ってろ!!」
ギドンの怒鳴る声に気が付いて出て来た兄弟子に、ジュングは仕込みの続きをするようにと厨房の奥に引っ張って行かれた。
「スチャン・・奥さん、スンジョ君・・・・ハニはやっと落ち着いたんです。こっちでのことは忘れて、一から出直すつもりで転入した向こうの大学で、きちんと卒業をさせてやりたいんです。こっちに戻すにはまた転入試験を受けるなんてあの子には無理ですから。それに、ハニみたいに何も出来ない娘には、スンジョ君のように優秀な人間はもったいなすぎますから。」
ギドンは時間が気になった。
二日前から出産の兆候があると、田舎の母ギミから連絡があったから。
今日にも産まれるかもしれない。
もし、スンジョたちがいるときに、産まれたと言う連絡が有ったら・・・・・・秘密にして田舎に帰ったことが判ってしまうのを恐れていた。
運が悪いのか、そんなときに電話が鳴った。
「マスター、電話です。」
ジュングが受話器を持ってギドンの所に来た。
<ギドン、産まれたよ。綺麗な顔をした女の子だ。>
「はい・・・はい・・・今日の夕方に、確認の電話をします。」
<今、都合が悪いのか?>
「申し訳ありませんね。来客中なので・・・・・」
<子供の父親でも来てるのか?>
「そうです。そういうわけなので・・・・・」
<じゃあ、都合がいい時間に掛け直してくれ>
ギドンは電話を切ると、またスチャン達の方を向いた。
「スチャン、悪いな。団体の予約があるから・・・・・・・・」
「ギドン・・忙しいのに悪かったな。でも、考えておいてくれないか?息子が勝手にしたことと言え、お前の大切な娘にしたことが許されるわけでもない、スンジョも自分の愚かさに気付いたしハニちゃん以外スンジョが結婚をしたいと言う相手はいないんだ。だから、絶対に連絡先を教えてくれよな。」
勘の良いスンジョが電話の事を気づいていないことをギドンは願った。
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