あなたに逢いたくて 31
「ギドンさん、私達にハニちゃんを会わせないように何か隠しているわよね。」
グミは他愛もない話をしていた時と、ハニの名前を出した時に顔を背けるようにしていたギドンの様子を不審に思っていた。
ギドンとハニがペク家を出て行った後も、時々スチャンやウンジョとククスを食べに店を訪れていたのでずっと交流はあった。
「ママ、それは考えすぎだよ。例えそうだったにしても、スンジョがハニちゃんにしたことを思えば判らんでもないけど。」
「お兄ちゃん!あなたがいけないのよ!!どんなに意地悪をしてもめげないで、あんなに一途にお兄ちゃんのことだけを信じて思ってくれていたのに・・・・・それとね、ずっと聞きたかったことがあるのよ。」
狭い車の中で、まくし立てるように話す甲高いグミの声に、耳を塞ぐように手を押さえていた。
「ママァ、車の中では、静かにしてくれないか?」
「だって、家では話せないじゃない・・・・・・思春期のウンジョに、男女のことや悪いことは教えたくないのよ。」
グミはスンジョの見合いが破談になってからは、何が何でもハニを見つけて読めとして迎え入れようと、必死になってハニを探していた。
不定期に突然ギドンの店に行けば、何か情報が得ることが出来るのではないかと思っている。
ウンジョが修学旅行で帰って来ないから、どんなに時間をかけてでもいいから行き先を聞き出そうと、スンジョとグミはとスチャンの通院に付き添った帰りにギドンの店に来たのだった。
「オレのマンションに行こうか・・・・・ここから近いから」
スンジョは車を自分が住んでいるマンションの方向に進路を変えた。
マンションにはまだハニの使っていた物が、処分をしないで残したままになっている。
グミがそれを見れば、何を言うのかも判っていたが、ハニとのことを知りたがっているグミに、秘密にしていた自分たちのことをもう話してもいいと思った。
「若い男の子の部屋なのに、綺麗に片付けられているわね。」
グミは初めて見る息子の部屋に、母親としてハニ以外の女性が来ていた痕跡がないかと、スリッパ立てや洗面所にトイレにいたるまで、細部にわたってチェックをした。
ハニが履いていたスリッパ、ペアの食器類とクッション。
グミが手に取り見ているのを横目に、未だにハニが忘れられないで、ハニが買い揃えたものを処分をしていない自分に苦笑いした。
「さあ、話してよ。いつからあなたとハニちゃんの二人は付き合っていたの?」
「二年前・・・・・・オレがファミレスでバイトしていた頃。切っ掛けはテニス部の夏の合宿の後・・・・球拾いけしかさせてもらえないのに、オレとのコンビで先輩と試合をやることになったんだ・・・・ボールが怖くてラケットもまともに握れないのに、泣き言も言わずただオレの為にだけ練習しているハニが凄くイキイキしていたんだ。結局、捻挫して、とても戦える状況でもないし、立つことも間々ならない状態だったから試合は中止になった。歩けないハニを背負って医者に行く事になったその時に、初めてハニが凄く大切な存在に感じた。ハニのことをもっと知りたい、ハニの明るい笑顔を自分だけに向けて欲しくなった。医者に行ったその帰りに、思い切ってハニに言ったんだ。これからは、オレとのことを考えて見ないかって。」
「もしかして、雨が酷くて私が迎えに行けないって言った時、もしかしてあの時に何か有ったのじゃないの?」
頷くスンジョに、グミは目を輝かせた。
「スンジョ・・・・ママが聞いても、何もなかったって言ったわよね?」
「有った・・・・・・・・・ただ、お袋の思い通りになるのが嫌だったから、ハニに口止めをさせた。」
身を乗り出して、その時のことを聞き出そうとするグミをスチャンは制した。
「ママ、スンジョの話をもう少し聞こう。」
あの時、お袋に話していたら良かったのかどうかは判らない。
でも、あの頃はこんな風になるとは思わないし、ハニが自分のそばにいるのが普通で、言無くなる事など無いと思っていた。
その後に何度もマンションに来ては、二人で朝まで過ごしたのを懐かしく思い出す。
ハニしかいない、障害図と一緒にいる女性(ひと)は、ハニ以外考えられないと思っていたから結婚を考えた。
ハニが教えてくれた自分の夢、それを一緒に叶えたかった。
親父が倒れて、社長代理として会社に行くことになっても、ハニが待っていてくれるから、普通に何も考えずにまた戻れると思っていた。
会社の事は一言も家ではハニは聞かなかったから、オレも会社でのことは話さなかったし、オレが見合いをした事の事情など知らなくて、オレが悩んでいることも考えもしない。
疲れて家に帰れば、見合いの話が出た事も忘れて、子供のようなハニの笑顔を見ていた。
自分のわがままで何十人何百人の人の生活を壊していけない。
だから、見合いをした。
ハニは判ってくれる、判ってくれた。
あっという間に自分の心に入って来たハニだったから、忘れるのもきっと簡単だろうと思っていた。
「じゃあ、お兄ちゃんは今でも本当にハニちゃんのことが好きで忘れられないの?」
「ああ・・・・ハニがいなくなって初めて気が付いた。オレがオレらしく笑ったり怒ったり出来るのはハニだけ・・・ハニしかいない。だから、お袋に家に帰って来るなと言われた時、ここでずっと調べていた・・・・何処かにハニを知っている人がいるかどうかを・・・・・」
ずっとスンジョの話を黙って聞いていたスチャンが静かに聞いた。
「見つかったのか?」
「学生課に聞いても、個人情報は誰にも教えられない。ハニの仲の良かった友達に聞いても口を噤んで(つぐんで)教えてくれない。当たり前だよな、オレがした事を考えれば・・・・・・・大学を出て時間に余裕が出来たら、その時では遅いかもしれないけど、どんなに遠い離島まで回ってでも探すつもりだ・・・・・・・・変だよな・・・・・オレがこんなに未練たらしい男だとは思わなかった・・・・・・見つけたら・・・・ただハニに謝りたい・・・・・」
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