スンスクの春恋(スンスク) 159
気力がなくなっているうえに、肺炎に罹患していたら万が一の事を考えてほしい。
スンスクが帰宅した事を、兄のスンリに電話で連絡をすると、神妙な声でそう告げられた。
パラン大病院の駐車場に車を停めると、大きく深呼吸をして気持ちを切り替えた。
「セイラ、今ドアを開けるから待っていて。」
エンジンを切って急いで車を降り、後部座席のドアを開けた。
「大丈夫だよ。肺炎だから、良くなればお母さんも退院してシシリーを抱いてくれるから。」
目を覚ましたのか、ぐずり始めたシシリーをあやしながらセイラは不安そうな顔をスンスクに向けた。
「お義母さんに何かあったらお義父さんも心配だわ。お二人ともとても仲が良くて、どちらかに何かあったら・・・・」
「大丈夫、きっと大丈夫。」
自分で言って、自分で大丈夫だと思う事にした。
病気らしい病気をした事のない母が、スンスクの記憶の中で入院をしたのはスンギが産まれる時と、スングとスアが産まれる前から産まれるまで入院をしていた時だけ。
母の笑顔は、ペク家の中を明るくする。
家事が完璧に出来る母ではないが、それでも子供たちには大切な母だ。
「お父さん・・・・」
偶然に廊下を歩いていたスンジョに会うと、父の顔が元気なだけでも安心できた。
「スンスク・・セイラ・・・」
「お母さんが入院をしたって・・・・」
思った以上に深刻ではないのかもしれない。
お父さんの表情はいつもと変わらない、落ち付いた表情だった。
もっとも、お父さんはどんな事があっても、表情を変える人ではないけど。
「お父さんの判断違い。ただの風邪だそうだけど、熱が高いし食欲もないみたいだから、今夜だけ様子見で入院をするよ。」
「お父さんの判断違い・・・・ですか。」
「判断違い。」
お母さんの事になると、お父さんは時々判断ミスをする事はある。
普通の夫になるお父さんも、僕は好きですよ。
「セイラ、産後初めての遠出で疲れたのじゃないか?」
「少しだけ・・・・」
セイラは人が心配をして聞いても、強がりを言ったりしない。 そこがミラと違うところだけど、それはそれでその人の良さだと思っている。
「医師を紹介するから、診察をして貰うといい・・・」
セイラが抱いている孫を覗き込むと、昔の事を知っている人が見れば驚くだろう。
まだ小さい孫の顔を見ると、優しい瞳に変わっていた。
「セイラに似ているから、ジョンウォンも喜ぶだろう。今日は、ジョンウォンの家に行けないけど、近いうちに行くからと伝えてくれるか?」
「はい。」
スンスクはスンジョの心臓の具合は気になったが、顔色も悪くないし大丈夫だろうと思った。
「お母さんに会えますか?」
「会えるよ。」
スンジョに付いて病室に向かう廊下を歩くと、まだ病院に勤めていた頃の看護師や医師が会釈をする。
それ以外の人も知っているくらいに、まだスンジョの事を知らない人はいないのだろう。
静かな廊下の一番奥の部屋から、大きな笑い声が聞こえた。
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