スンギはミルクティー 4
母に冷たい言葉を掛けたのに、母は笑顔で気にしていないような顔をして書斎を出て行った。
テーブルの上には父のコーヒーと兄のコーヒーに並んで、スンギにはミルクティーと練乳の入ったミルクピッチャーが置かれていた。
スンギがミルクティーを飲むきっかけは、小学生の頃に自分の下に双子が生まれて、母が双子たちにミルクを飲ませていた時に、それまでママッ子だった自分が、いきなり母を取られてしまい淋しそうにしていた時に作ってくれたのが始まりだった。
「スンギ、ゴメンね。ずっとスンギが一番下でオンマを独り占めできたのに、予定外に弟と妹が一度に出来てゴメンね。ミルクティーに練乳を入れたらオンマの味と思って飲んでね。」
スングとスアがミルクを飲むときには必ず作ってくれたミルクティー。
スンハもスンリもスンミとスンスクも、甘すぎるミルクティーは飲めないと言っていた。
双子のスングとスアも、この甘いミルクティーは嫌いで、いつもスンギ一人の為に母は淹れてくれた。
「スンギさぁー、どこが間違えたのかは気が付いているのか?」
「大体・・・・・間違えた所は迷って書いた所が殆ど。数学は・・・・・苦手だけど、スンスク兄さんに教えてもらった通りに解いたけど・・・・・自信が無くて・・・」
スンギの勉強はスンスクがミラと結婚してからも見てくれていた。
兄たちとは違って、覚えるのに時間が掛る事が出来ない原因だった。
時間を掛けて取り組めばどの問題も解けるのだが、7クラスにいる事がスンギにとっては一番自信がなくなる原因だった。
「スンギが勉強が好きではないのは仕方がないが、お母さんと似ているスンギなら、努力すればきっと出来るはずだ。お母さんが昔お父さんが進学をする事の意味を見つけられなかった時、大学は勉強をする為ではなくやりたい事をやるために行く大学だと教えてくれた。お母さんが教えてくれたから今のお父さんがあるんだ。」
「やりたい事?」
「お兄ちゃんもお姉ちゃんも、小さい頃から医者になりたいと思っていた。スンミが生まれた時にお姉ちゃんは産婦人科の医師に、お兄ちゃんはお父さんと同じ外科医になりたいと思った。スンスクは、誰もが医学の道に進むと思ったみたいだけど、自分は気が弱いからと言って国語の教師になる事に決めた。だけど、一番スンスクが凄いと思ったのは、ミラの為に国語の教師を目指すと決めたところだろうな。」
スンスクとは歳が離れていたが、よくイタズラをする兄に付いて、小さい頃はそれを真似ていた。
「スンギは勉強が嫌いなのか、大学に行きたくないのかどっちだ?」
父は決して親の考えを押し付けたりしない。
子供の小さな才能を引き出してくれる。
去年結婚したスンミは、身体が弱いからとパランではなく、学歴を付けるためだけに富裕層の娘の通う大学に行ったが、結婚を機に辞めてしまった。
それでも父は何も反対はしなかった。
「大学は行きたい気持ちは少しはあるけど、勉強をするのが嫌いだから。」
「本当に嫌いか?」
「本当に・・・・・・・・・嫌いだと思う。」
クルッと後ろを向いて、見覚えのあるノートを一冊取ると、それをスンギの前に出した。
「お父さん・・・・・・」
「お母さんが見せてくれたよ。スンギの作る家庭菜園は、化学肥料を使わないで作るから葉っぱを虫に食べられるけど、生で食べる事が出来て美味しいって・・・・・スンミが畑をやりたいと思ったのも、スンギが毎朝早くから野菜に付いた虫を取ったり、水を与えたり、台所で出る生ごみを肥料にしてそれを使ったり、それを見ていたからだと言っていた・・・・・・随分と勉強をしているじゃないか。」
誰もスンギのしている事になど興味もないと思っていたが、父も母も姉のスンミもそれを見ていた。
「パランには農学部もあるのを知っているか?小規模だけど、いい講師が揃っているから、スンギの性格にも合うと思う。ククスのおじいちゃんが、スンギが進路で悩んでいるからお父さんに何とかしてほしいって・・・みんながスンギの事をちゃんと見ていてくれるから、他人が何と言おうと気にするな。」
双子たちが生まれるまでは五人兄弟の末っ子で、ただ兄たちの後を付いて行けば何も困らなかった。
みんなが先に進んでくれるからそれに付いて行くだけで、誰もスンギの事には興味がないと思っていた。
「考えてみる・・・・・・・」
「押し付けはしないから、まだ確定の進路じゃないから自分の考えで書いていいぞ。ペク家はお父さんがハンダイを継がなかったから、その子供たちはどんな仕事に就いても構わないから。」
父がそう言うと、何をしていたのか兄のスンリはスンギの答案用紙の点数をプラスして書いていた。
0コメント