スンギはミルクティー 5
父の書斎から出ると、ダイニングでスングとスアと話をしながら台所の片付けをしている母が気になった。
「小学生のスングとスアは、もう眠らなければいけない時間でしょう。」
「「えーっ、学校のみんなは11時まで起きてるって言ってるよ。」」
一卵性の双子だからなのか、よく同時に話す事がある。
「みんなって、クラス全員なの?」
「2~4・5人くらい。」
自分よりももしかしたら頭が良いかもしれない二人も、普通の小学生のような直ぐに見破られそうな話をする。
酷い事を言ったと後ろめたさはあるが、その三人の中に入るのに気が引けた。
「アッパは高校三年生の時でも、9時には眠っていたわよ。アッパのように素敵な人になりたいのなら早く寝なさいよ。スンリお兄さんとソラさんは、今夜は泊まって行くから明日の朝に会えるわよ。」
「は~い。私が先にお風呂に入るからスングは明日の学校の準備をしてよ。」
「またスアが先に入るのかよ。」
いつも風呂の順番をスアが決めて文句は言うが、スアが勝手に決めた順番でするが喧嘩をする事はなかった。
気が付けば母の長い髪の中に数本白いものが混じっている。
今まで気が付かなかった事が沢山あった。
どんな時も叱った事が無く、いつも父の隣で幸せそうに笑っていた母の泣いた顔は見た事が無かった。
優秀な父とは対照的に、普通の人の何杯も努力をしている事が判る母は、それが当たり前の様にやっていて「辛い」とか「もう出来ない」と言う事は一度も言った事が無かった。
さっきまでハニはスングとスアと笑顔で話をしていた。
双子たちがダイニングから、二階にある子供たちのバスルームに入った音がすると、シンクに手を付いて動かなくなっていた。
スンギはそんな母の背中を黙って見ていると、背中が震え始めた。
「うっ・・・・うっ・・・・ぅう・・・・」
お母さん・・・・・・泣いてるの? そう聞きたくても素直に聞く事が出来ない。
「私に頭が似ちゃったから、スングが悩んでいるんだ・・・・・・・・どうしてあげたらいいのだろう・・・スンジョ君に似たのなら、スンリ達みたいにきっと何も悩まなかったかもしれないのに・・・・・・それに・・・・・・」
スンギは母の独り言を聞くと、何も考えずにそのまま母の背中に抱き付いた。
「お母さん、ゴメン・・・・・お母さんが悪いわけじゃない・・・・オレがただ勉強が出来ないだけ。もっとちゃんと勉強をするから。だから・・・・泣かないで。」
「スンギ・・・・・・ゴメンね・・・お母さんの頭に似ちゃって・・・・沢山兄妹がいるから子供たちにもあまり手が掛けられなくて・・・」
誰のせいでもなく、自分がただ勉強が嫌いなだけでお母さんに酷い言葉を掛けて泣かせた。
いつの間にかお母さんの身長をとっくに越して、抱きしめてもらっていた子供の頃とは反対に、オレがお母さんを抱きしめている。
そんな二人の様子をスンジョとスンリは黙って見ていた。
「スンリはソラさんとソナが休んでいる部屋に行く時に静かに行けよ。お父さんはもう少し書斎でやる事があるから。」
「ああ、判った。お休みなさい。」
「お休み。」
「スンギ・・・・・ミルクティーを入れるから・・・・・」
「うん。」
「飲んだらきっといい考えが浮かぶと思うよ。」
母の甘いミルクティーは、母のオレへの愛の形なのだと思う。
いつもよりも甘いミルクティーは、スングとスアの様に親に反抗的な態度を取らない年齢に戻してくれそうだった。
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