スンギはミルクティー 8
「じゃっ・・・またな。」
「スンギ、またな!」
しつこいマリーの視線から逃げる様に、スンギは急いで荷物をカバンに収めて教室を出て行った。
「スンギ君!待ってよ・・一緒に帰ってくれないの?」
マリーの掛けた言葉に返事をする事なく、スンギはあっという間に階段を降りて靴を履きかえて逃げるように校舎の外に出て行った。
「無理だよ。スンギは小学校に行って、双子の弟と妹を迎えに行かないといけないから。」
「双子の弟と妹?どうしてスンギ君が迎えに行くの?お母さんはいないの?」
「スンギの所はね、お父さんがパラン大の医学部の教授で、お母さんは看護師で忙しいからいつもスンギが迎えに行くの。」
「へぇー、そうなんだ。」
マリーは小学校の時に韓国に来た時≪ソ・パルボクククス≫の店でスンギのお母さんに会った事があった。
父の好きだった人だといつも言っているのを聞いて、そんな話を堂々と言ってはお母さんが可哀想だと思っていた。
「ねぇ、 家はどっちの方?一緒に帰らない?」
初めてのパラン高校での一日は、マリーの思うようにはならなかった。
小学生の幼い頃は同じ年と言う事で、一緒に遊んだり話をしたり、隠れん坊をしているうちに狭い場所に入り込んだ記憶があった。
あの時はあんなに仲が良かったのに、久しぶりに会ったスンギはマリーとの事は全く覚えていないようだった。
「最初っから、覚えていると言われないだろうと判っていた。」
父から聞いたパラン高校の話は、昔も今もさほど変わっていない。
1クラスは成績優秀な天才たちの集団で、マリーが勉強する事になった7クラスは落ちこぼれ。
「マリーや、落ちこぼれでもみんないいヤツだ。団結力もあり明るくて楽しくて・・・・・田舎出の父さんが、高校生活は楽しかったと今でも思えるくらいだから。その中で、オ・ハニって父さんが仕事をしていたククスの店のシェフの娘がいてな・・・・・好きだったんだけど、その思いは叶わなかった。」
高校はイギリスではなく、パラン高校に行きたかったが、母と父の意見が合わなくて結局高校最後の学年だけ通う事になった。
途中でクラスの子達と別れてから、一人でメモを手掛かりにして≪ソ・パルボクククス≫の店を探しながら歩いていた。
「ここだ!シェフのお店はこの場所からずっと変わらないままだ!」
マリーは勢いよく店のドアを開けた。
「こんにちわ!」
「いらっしゃいませ、まだオープン・・・・・・何だよ、気持ち悪いなぁ。オレの後を付いて来たのか?」
「まさか・・・・・シェフに会いに来ただけよ。」
マリーの明るい声が店内に響くと、奥からギドンが出て来てマリーに昔と変わらない笑顔を向けた。
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