スンギはミルクティー 9
「大きくなったなぁ~。」
「シェフは変わらないね。」
「お父さんとお母さんは元気にしているか?マリーが来るときに、一緒にこっちに来れば良かったのになぁ。」
「そう言ったんだけど、お兄ちゃんが店を出すから忙しいんだって。荷物は届いてる?」
マリーは店内をグルッと見回した。
「ああ、来てるよ。部屋に運んであるから、荷解きしておいで。二階に上がってすぐの部屋だから。」
「はぁ~い。」
長い足で階段を一段おきに駆け上がって行くマリーの後姿をスンギは見ていた。
「なんでマリーが二階に上がって行くんだ?」
「店の二階に下宿するんだよ。ジュングおじさんもその方が安心だろ?韓国語は判ると言っても、親元を離れて暮らすには知っている人の家が一番だ。」
「釜山に行けばいいのに。アッチはジュングおじさんの実家があるからその方が安心なのに。」
「学校は釜山より、ソウルの方がいいからな。一年だけこっちにいて、高校を出たら向こうに帰るからその一年だけ店の二階から学校に通うんだ。」
≪ソ・パルボクククス≫の店の二階は下宿用にはしていないが、一時ハニが仮住まいしていた時の家具がそのままになっていた。
「お母さんから聞いたよ。大学に行く事にしたんだってな。」
「うん・・・・大学に行ってから、自分の進みたい方向を考えてみようと思って。農学部に行こうかと思ってるんだ。美味しい野菜を作ったりする事をもっと勉強をしてみようかと思って。好きな事ならやって行けるんじゃないかって思ったんだ。」
「そうか。スンミの様に目標が見つかったら、大学を辞めてもお父さんもお母さんも怒らないと思うよ。お母さんだって、社会科学部に入ったのに結婚してから看護学科に移ったからな。」
「お父さんが医学部に移って、一緒に仕事がしたいからって看護学科に行ったって・・・それもありかなって思った。どこまでできるかは判らないけど、頑張ってみるよ。」
スンギを見ていると、ハニが男だったらあの時はこんな風に悩んでいたのかもしれないとギドンは思った。
バタンと二階のマリーが使う事になる部屋のドアが開いたと思ったら、大きな足音を立てて階段を駆け下りて来た。
「スンギ!見て見て!小さい頃にこっちに住んでいた時に、スンギと一緒にお風呂に入っている写真が出て来たわ!」
何枚かの写真を持ってマリーはスンギとギドンの近くまで来て、それをテーブルの上に広げた。
幼い二人で楽しそうにバスタブに入って、こちらを見ている姿が写っていた。
その様子を写したのは勿論スンギの祖母のグミだった。
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