スンギはミルクティー 14
誰が言ったのだろう、あの呪文のような言葉は。
「マリーよ。マリーが言ったの。」
「マリーが?」
「あの時のスンギは末っ子で泣き虫だったし、女の子みたいな顔だったからよく苛められていたの。ククスのおじいちゃんの店に行っては泣いていたからねぇ~」
「で・・・どう言ういきさつであの呪文が出来たの?」
マリーはジュングおじさんから色々な事を教えてもらっていた事は知っている。
それはうちのお父さんみたいに勉強が出来るわけでもなく、人間として必要な事を教えてくれるみたいだと聞いたことがある。
「『また意地悪された』と言って泣いた時に、マリーがおじさんにそう教わったのよ。『泣く日もあれば笑う日もある、これが人生なのだからって・・・・・・ね。その時にマリーはまだ小さな子供なのに言っていたのよね。」
マリーだったんだ。 練乳はその時からずっと入れていた。
小さかった頃の昔の事を忘れてもおかしくないのに、そんな呪文を覚えていた。 お母さんが言うには、あの頃のマリーはイギリスと韓国を行ったり来たりの生活で、あまり友達も出来なかったから、こっちに来ている時は同じ年のスンギとよく遊んでいたらしい。
子供の遊びだからそれを真に受けているとは思えないのはオレだけか?
おままごとの中での二人は結婚をしていたそうだが、まさかあの時の事をマリーは実現させるとは思っていなかった。
マリーから逃げていた高校三年。
それでもそれが結構楽しくて、マリーに追いかけられているのを楽しんでいた。
一年間だけパラン高校に行く約束だったが、なんだかんだと言い続けて結局大学もパランに通う事になったマリー。
さすがに学部までは一緒にならなかったけど、その頃にはあまり話もしなくて、時々会えば頭を下げて挨拶をするだけになっていた。
あんなにどこでもオレを追いかけていたマリーがどうして急にオレを避けるようになったのかは知らない。
淋しい気持ちもあったが、お互いに彼氏彼女が出来てそれっきりになってしまった。
「ねぇスンギ、これとこれ・・・・どっちが似合う?」
「どっちも似合うよ。両方買ってあげるよ。」
オレの今の彼女は着飾るのが好きだ。
男は母親と似た人を好きになるというが、オレはお母さんとはタイプの違う女の子とばかり付き合っていた。
マリーだったら、お母さんと似ていたが・・・・・
「いいの?」
「100日記念だから。」
オレは何度色々な女の子と100日記念をやってるんだ。
「じゃあ、私からはスンギに何をプレゼントしようか?」
「何でもいいよ。」
おしゃれなカフェに行きたいと言われて入ったこのカフェも、何度別の女と同じ店に来たことか。
相変らずオレは、練乳持参で注文したミルクティーにそれを注いでいた。
「ねぇ・・・後ろに座っている女の子・・・スンギと一緒で、ミルクティーに練乳を入れているわ。」
チラッと振り返れば、外人みたいな髪の長い女の子が彼氏とデート中だった。
なんとなくマリーの後姿に似ていたけど、マリーは髪が短かったからきっと別の子だろう。
それなのに、オレは後ろのカップルの会話に耳が集中していた。
「結婚してほしい。」
「私でよければ・・・・・」
何だ、サプライズもなしのプロポーズか・・・・・
「ありがとう、マリー。」
マリー?
マリーなんて在り来たりな名前にオレは思わずしっかりと振り返った。
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