あなたに逢いたくて 33
ハニは産まれたばかりの我が子の寝顔を見ながらそっとつぶやいた。
「あなたの名前は、スンハよ。スンジョのスンとハニのハ。生涯アッパには会うことはできないけど、オンマが好きになれるのはスンジョ君だけなの・・・・・凄く優しくて凄くさみしがり屋で凄く・・・・・凄く・・・・・世界一の天才なんだよ。生まれたばかりだけれど、スンハの静かに眠っている顔を見ていると、人と騒いだりしているより静かに一人で本を読んでいる時のスンジョ君に似ている。大きくなったら、あなたのアッパはどんなに素敵な人なのか教えてあげるね。」
産まれたばかりの子供に話しても解らないのに、まだ目も見えないスンハの顔をハニは目に涙を浮かべながら見ていた。
―――パラン大学 学食
「ミナ、見せてよ。」
ハニが田舎に行ってもいつも通り、ミナと学食でランチをするために走って来た。
「ジャ~ン!今朝、ジュングが持って来てくれたの。」
ミナは、手帳から一枚の写真を出した。
それは、可愛いらしい産まれたばかりの赤ちゃんの写真。
「ジュングがおじさんに借りてくれたの。」
「どっちに似ているのか、サルっぽいというか産まれたばかりは、みんな同じ顔をしていて判らないね。ハニはス・・・・に似ているっての。」
二人が写真を眺めていると、学食に来た女子学生が、もっと近くで見ようと自然と集まって来た。
誰もがどこの赤ちゃんか、誰が産んだのかと知りたがっていたが、ハニと四人以外に秘密で教えることが出来ない。
写真を見て騒いでいる女子のそばを、通り過ぎようとするエリート集団の医学部学生の中に、ミナとジュリはスンジョがいる事に気付いた。
「ペク・スンジョ!この写真を見て何か思わない?」
ジュリが、写真をスンジョの顔の前に突き付けた。
「ジュリ・・・・やめなよ。」
ミナは、ジュリの腕を引くが振り掃った。
「それが何だ?見ず知らずの赤ん坊の写真を見せてくれても、オレには関係ない・・・短い休憩時間で食事をするんだ。あんたたちとふざけ合っているほど暇ではないし、時間がないんだ退けてくれ・・・・」
それまで、言いたいことが沢山あっても、ずっと我慢していたミナが立ち上がった。
「ペク・スンジョには、可愛い物を見ても可愛いと思える心がないんだから、赤ちゃんの写真を見て何か思うかと聞いても無駄だよ。ペク・スンジョ・・・・・一言だけ言うけど、心のないあんたには、その赤ちゃんが可愛いとも癒されるだとか言う感情なんてないだろうね。だけど・・・・・・だけど覚えておいて。ハニが6年間もアンタだけをただひたすら思ってきた思いを汚さないで・・・・どんな思いでハニがソウルを出て行ったか・・・考えて。」
スンジョは、ミナに言われなくても判っている。
ハニが去ったことが自分にとってどれだけ堪えたか・・・・・・誰にも言わないで、少しずつでもハニを自分で探し出したい。
誰が産んだのか判らない赤ん坊の写真を見ても、可愛いと思う感情も何の思いも浮かばない。
今オレが思う事は、ハニに逢いたいということだけだ。
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