スンギはミルクティー 19
自分の心が判らない。
家に帰って机に向かってじいちゃんの店でやっていた事の続きを始めようと思っても集中できない。
上着のポケットの中を探って、タバコとライターを探した。
指先に触れるものの感触が何も感じられない。
しまった!じいちゃんの店に置いて来た。
口元に手を持って行けば、マリーの唇の感触。
どうしてあんなことをしたのか、自分自身でも何度も考えても判らない。
最近、無性にイライラとしてマリーが話しているのを聞かなければいいのに、聞いてはイライ
ラ・・・・・
___ トントン・・・・
「スンギ、入ってもいい?」
お母さんか・・・・・
「いいよ・・・・・」
ハニがスンギの為に淹れたのだろう、甘いミルクティーの香りが部屋中に漂った。
滅多に夕食の後にはミルクティーを飲まないが、不思議とイライラとした時に母が持って来てくれる。
「おばあちゃんがスンギの事を心配していたよ。スンギはスンスクと同じくらい何も悩みを言ってくれないから、お母さんにだけは話して・・・・と言っても、男の子の気持ちは判らないかもしれない。そんな風に一人で悩んでいる所はお父さんと同じね。大学に入って何かやりたい事を見つけてくれればいいけど・・・・・・・そう思って農学部を勧めたけど、もしスンギが興味のある物が見つかったらそっちを優先にしてね。」
お母さんの顔をいつからしっかりと見ていないのだろう。 それでも判る。
お母さんはオレが何も話さないから、オレのこのモヤモヤとした気持ちを気にしているのかもしれない。
「あのさ・・・・・・」
「なに?」
「あるヤツが、イライラして好きでもない女の子にキスをしたんだけど、キスしたことを悪いと思って謝ったんだよ。謝った言葉をその子が聞いたら、涙を流していた・・・・・・・どうして涙を流したんだろう。お母さんならわかるよね。」
「それってスンギがマリーにキスをしたっていう事?」
「違う・・・・・・・」
「フフフ・・・・・」
「お父さんと似ているね・・・・・お父さん書斎にいるから聞いてらっしゃい。女の子の気持ちが判らない者同士、話せばわかるかも。」
何日かぶりに見た母の顔。
何も言ってくれないけれど、お母さんはきっと素直になってみたらと言うのだろうな。
素直になるのはオレにとっては特別に大変な事。
その素直になれ無い部分の事は、父であるスンジョから受け継いでいた。
お母さんが作ってくれた甘いミルクティーには、練乳がたっぷりと入っている。
タバコもお酒もやるから、味覚がマヒしているから練乳の量が増えてしまうかもしれない。
仕事で忙しいお母さんの助けになるためならと、おばあちゃんに付いていてもらいながら始めた料理。
オレに出来る事はこんな事しかない。
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