スンギはミルクティー 20
書斎の机で表情も変えずに本を読んでいるスンジョとは対照的に、ハニはその後ろのソファーに腰かけて何かに悩んでいるような顔をしている。
何かに悩んでいるというより、最近のスンギの事で悩んでいた。
幼い頃は甘えん坊で、ハニがいないとメソメソとし、歳の離れたスンハがいつも抱いていた。
スンハが嫁いでからはスンリの後ばかり追い、その頃には生まれたばかりの双子の弟と妹がいたから、ハニが双子たちに掛かりっきりになるといつもそばでハニと一緒に双子たちの世話を手伝っていた。
思春期になる頃には、どこか傷付いたような顔をして塞ぎこむ事が多かった。
「ハァー」
「何をため息を吐いているんだ?」
「何って・・・・聞いてくれる?」
「聞きたくないと言っても、聞かされるんだろ?」
ハニに背を向けたままのスンジョは、ハニがどんな顔をしているのかよく判る。
結婚してあと数年で40年。
相変らず子供みたいにすぐに悩むハニと、年齢が重ねられると更にスンジョの整った顔立ちはまた一段とハニは素敵になったと思っている。
「こっち向いて話を聞いてくれないと・・・・・」
本を静かに閉じて、椅子から立ち上がりハニの横に座った。
「放っておけよ。問題を起こしたわけでもないだろ?」
「でも・・・・・問題が起きてからだったら困るじゃない。マリーともし何かあったりしたら・・・・・」
「大丈夫だよ。小さい子供じゃないのだし。」
大きく伸びをして凝っている肩をポンポンと叩いて、ハニの身体を自分の方に引き寄せた。
「あれはスンギが高2の時だったな・・・・・ハニが、スンギの部屋からタバコと灰皿を見つけただとか、ビールの空き缶が置いてあっただとか・・・・・・・」
「そうよ、あの時だってスンジョ君何も言わなかったでしょ?」
「いけないと判っているから、机の引き出しに隠してあるのだろ?」
「スンジョ君、知っていたの?」
「知っていたよ。部屋の前を通った時に、隙間から煙が出ていたからな・・・・・・ちゃんと火は消しておけよと言っておいた。酒、たばこ・・・・・母親には言えないDVD・・・・別に問題ないぞ。スンリはお前に言えないDVDを何枚か持っていたぞ。」
「私に言えないDVD?」
クスクスと笑うスンジョに、ハニは最初は意味が判らなかったが、スンジョが耳元で何かを呟いた時に、急に恥ずかしくなって顔を赤くした。
「ス・・・・スンジョ君・・・・・スンジョ君も確かギョンス先輩から借りた・・・とか言っていたよね。」
「よく覚えているなぁ、大学一年の時の盗み聞きをした話を・・・・・」
「スンギの事はオレが様子を見て話すから、お前は気になるかもしれないがあまり口を出すなよ。アイツはいつも姉や兄たちに何も言わなくても助けてもらってばかりで、自分の気持ちや考えを表現が出来ない。殻を破るにはその人によって違うが、その殻を破るきっかけは自分でしか見つけられない。親は助言するしかできないから、時間が掛ってもいいから待っていよう。」
スンジョは自分がハニによって殻を破ることが出来たように、スンギもまた殻を破ることが出来る誰かを見つけることが出来ればいいと思った。
「スンギって、スンジョ君の性格に似ている所があるものね。」
「そうか?オレにしたらアイツはハニと似ているぞ。」
書斎の中から、両親のその会話が廊下にいるスンギにも聞こえた。
何も言わない父を冷たい人だと思っていたが、冷たいのではなくその殻を自分で破ることが出来る様に見守ってくれているのだと知った。
0コメント