スンギはミルクティー 24
農学部は他の学部の人たちよりも早くに大学に来ていることが多い。
大学の入り口から、農学部の校舎はかなり遠く、入り口にある駐車場から校舎まで自転車で移動する。
研究用の菜園で、自分が担当している区画の植物に付いている害虫を駆除して水を撒いて、急いでマリーと約束しているベンチに向かった。
女の子と会うのに、泥の付いた作業靴に作業着。
悪い気もするが、マリーはオレのしている事を理解しているから大丈夫だと思っているわけでもないが、話が終わったら収穫作業もあるから、一々着替えてはいられない。
遠くからでも判るマリーの姿。
いつもスンギより先に来て待っている。
悪い気持ちもあるが、学部が学部であるからやるべきことをやらないと作物は育たなくなる。
「ゴメン・・・・・天気がいいから害虫の発生が多くて。」
「ん・・・・・」
いつもの明るく元気なマリーとはちょっと様子が違う。
昨日キスしたからなのか、マリーの柔らかな唇の感触が思い出してしまい、出来る限りマリーの顔を見ないようにしていた。
それがいけなかったのか、マリーの突然の言葉にスンギは何も言えなくなった。
「私ね、ギドンおじさんのお店を今朝出て来たの。」
「学校に来ないといけないからな。それがマリーの話したい事?」
「そうじゃなくて・・・・・・」
俯き加減のマリーの顔がスンギを見上げた。
背の高いマリーよりもさらに背が高いスンギ。
農作業着を着ていても、アイドルタレントのように可愛い顔をしている。
そのかわいい顔でタバコを吸って酒を飲むスンギは、反抗期の少年のように見えて、そのスンギの隣にイギリス人とのハーフの母から受け継いだ整った顔のマリーがいると、ドラマのワンシーンのように見える。
「私ね・・・・・おじさんの店の部屋を出て、マンションに移ったの。」
「引っ越したっていう事?」
「そう・・・・」
「オレがキスしたから、あの部屋にいたくなくなったの?」
「違う・・・・・よ。スンギとキスをした事も好きだった事も忘れるの。」
「どうして?」
「すべての言葉の意味は判らない事もあるけど、キスして謝るのはイタズラにキスをしたから謝ったのよね。ずっと小さい頃から本当にスンギが好きだった。だから、両親よりも一年以上も早くイギリスから移って来てスンギと会いたかった。いつも纏わりついているから鬱陶しかったよね。私は私ですぐに忘れる事はでいないけど、振り向いてくれないスンギを振り向かせるのはやめる事にしたの。」
キスして謝った事をそう思っていたんだ。 違うのに。
いきなり何も聞かないでキスをしたから謝ったのに。
何も言い返せないスンギを置いて、マリーは挨拶をして通り過ぎた同じ学部の女の子の後を追いかけて行った。
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