スンギはミルクティー 27
ミンがスンギを引き留めようとして大きな声を挙げている。
その声が静かなマンションの廊下に響き、両隣の部屋の住人が『うるさい』と言ってドアを開けて叫んでいる。
マリーと偶然に再会しなければ、いつもの様にミンの部屋に泊まっていた。
優秀な父や兄妹に勝手に劣等感を持って、悪びれた事ばかりしていた。
特にマリーに振られてからは、何人付き合った女がいたのか。
一番長く続いたのはミンだ。 ミンはオレが他の女と遊んでいても何も言わない。
そりゃあそうだろう。 ミンはスンリ兄さんが好きでオレに近づいたのだから。
ソラ義姉さんと結婚していることを知っているのに、スンリ兄さんと話がしたいと言ってはオレに言い寄って来たけど、それは付き合い始めた頃だけだった。
付き合いが深くなったこの一年、ミンは周囲の友達が結婚していくことに焦りを感じてオレにそれとなく遠回しに結婚の事を言っていた。
間違ってもミンと結婚をする気は無かった。
ブランド好きな彼女は、ペク家と言うファミリーブランドが欲しいだけ。
気が付けばスンギはマリーが両親と住んでいるマンション前に来ていた。
両親と同居することを知った時に、母からそれとなく聞いていたマリーの住所。
何度もマンションの前に来ていたのに、その先には行けなかった。
素直になって自分から本当の気持ちを全て打ち明けて、もう一度チャンスを貰いたいと言えばよかった。
ここに来る途中に買った缶ビールは生温く、美味しくなかった。
「スンギ?」
「マリー!」
後ろから呼びかけられて振り向くと、そこに立っていたのは母のハニと父のスンジョだった。
「あ・・・・・・・」
「お母さんとマリーじゃ声も違うのに、何か考え込んでいたの?」
ハニはスンギの持っているレジ袋の中を覗き込んだ。
「スンギ・・・・飲み過ぎよ。最近またお酒の量が増えたの?」
スンジョが何も言わずにただその様子を見ているが、スンギには父のそういう行動が苦手だった。
何も言わなくても、いつも全てを判っているようで、いつになっても兄たちの様に父の目を見て話すことが出来ないから。
「ハニ、ジュング達が待っているから・・・・・スンギ、お前も来るんだろ?」
「オ・・・オレも?」
「そうよ。マリーのお祝いなんだって。」
お祝い・・・・・そっか・・・プロポーズされたから。
「オレは・・・・・・」
「行こうよ。きっとマリーも喜ぶと思うよ。」
無邪気な母の顔を見ていると、スンギは帰るとは言い出しにくくなった。
いつも父と並んで歩いているハニを先に行かせて、スンジョはスンギを少し離れた所まで連れて行った。
「スンギはお父さんが嫌いか?」
「別に・・・・・・」
「それならちゃんとお父さんの目を見て話しなさい。」
生れて初めて父の目を見たような気がした。
昔からスンギはお母さんっ子で、スンジョには萎縮していた。
「スンギはお父さんの事を完璧人間だと思っているって?」
「思って・・・・・・」
「お母さんから聞いたよ。お父さんはお前が思っているほど完璧じゃないよ。」
スンジョはスンギの持っているビールの空き缶が入ったレジ袋を持った。
「お父さんはお前の様に、自分の感情の表し方を知らないんだ。」
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