あなたに逢いたくて 35
「おばあちゃん、キム先生に私のことを諦めるように言ってくれないかなぁ。私は誰とも結婚はするつもりはないよ。」
ギミは、曾孫をあやしながらハニの話を聞いていた。
「いつまでも捨てた男のことを思っていたって仕方がないだろう。相手も結婚すりゃ子供も産まれる・・・・待っていても、ハニを迎えに来てくれるわけじゃない・・・おばあちゃんはキム先生に、<孫娘は渡さん!>と言ってはいるけど、あの先生は見かけはハニが好きだった男より顔は劣るかもしれないけれど、自分とは血の繋がりも無いスンハを可愛がってくれてるじゃないか。」
ギミに言われなくてもハニには判っていた。
キム・ジョンスはハニが半島の学校に出かけている間、診察の合間にスンハの面倒をよく見てくれている。
「ところでおばあちゃん、顔が劣るって・・・・・写真も無いのに・・・・・・」
「スンハはハニに似てないだろ。赤ん坊なのにあんなに綺麗な顔をしてるんだから、いい男だったんだろ?」
スンハはスンジョによく似ていた。
赤ちゃんであっても毎日変わって行く子供の顔。
母親のハニを探す目・整った鼻筋に、きっと顔だけではなく頭もスンジョに似ているのだろうと思った。
「キム先生に付いて行ったらおばあちゃんは島で一人になるもん・・・・・・・おばあちゃん、たまに具合が悪くて起きられないでしょ。」
「この島は、老人ばかりだ。そんな所にいたって、何も進歩はしないさ。毎日が穏やかで、せかせかした生活をしなくてもいいから、傷付いた心を癒すのにはもってつけかも知れない。おばあちゃんだって若い頃は、新しい事を知る為にと、半島の方に行って生活をしていた。おばあちゃんの神経痛の事を心配しているのだろうが、ハニがそんな心配をしなくたっていいんだ。ギドンがここによこしたのだって、男の方の家に子供のことを知らせない為だけだから、来年看護師の試験を受ける時に、キム先生と一緒にギドンの所に帰りなさい。あの先生は真面目だし、ハニの全てを受け止めてくれるさ。おばあちゃんは、今からスエさんと一緒に薬を頼まれている人たちの所に配達に行くからよく考えるておくのだよ。」
ハニはギミの言葉に島に来たときからのことを思い出していた。
キム・ジョンスはスンジョとは正反対で、どこか自身なさそうだがハニが笑顔を向けると、いつも照れて顔を赤くしていた。
この国で一番のテハン大学医学部を出て、実家の小さな病院を手伝っていた所、召集が掛かったということだ。
服務で訪れたこの島は老人ばかりの島で、まさか何十年ぶりかの妊婦がいるとは思ってもいなかったと、よく話していた。
専門が内科のため、産婦人科や出産に関しての知識が乏しい分、助産婦として働いていた事のあるギミや、診療所の手伝いを永年やっているスエさんに聞きながら、ハニの初めての出産を手伝った。
ハニが看護学科で看護師を目指していると聞くと、近づいている国家試験の対策の勉強を教えてくれていた。
そのお蔭で、何とか模擬試験はそこそこの結果が出ていた。
島にいる人々は、ハニが結婚して直ぐに未亡人になったと誰もが思っていたし、ギミ自身スンハの父親が、昔ギドンと仲の良かったスチャンの子供ということを知らなかった。
ハニはまた、机の中からたった一枚しか持っていない写真を出して、それを見ながら独り言を囁いた。
「スンジョ君・・・・・スンジョ君もヘラと結婚するし、幸せになれって言ったから私も幸せになっても良いかな?」
自分の幸せは、スンジョと一緒に過ごす事だと思っても、それは叶わない幸せ。
叶う事が無い幸せなら、生まれた子供に父親がいない寂しい生活をさせるのではなく、子供のためにジョンスと結婚をして、子供のために幸せになるべきなのか迷っていた。
ハニ自身、母親がいなくて寂しい思いをしていたから、スンハニはそんな寂しい思いをさせたくない気持もあった。
左の薬指の自分で買った結婚指輪。
もう一つは、はめる相手もなく箱の中にポツンと置かれていた。
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