スンギはミルクティー 39
「スンギ・・・・起きてる?」
「ん・・・・お母さん?」
「入るわね・・・・・・・」
電気も点けずに、ベッドの中で身体を丸めているスンギの傍までハニは近づいた。
「お父さんから聞いたんだけど、具合はどう?」
「大分良くなったけど、まだちょっと・・・・・・・・・」
布団の中から手を出してスタンドの電気をスンギは点けた。
一日も経っていないのに、大学に行くために家を出た時に比べてかなりゲッソリとしていた。
「これだけでも飲んで。トイレが近いと言って、何も口にしないのはいけないわ。その代りね・・・・練乳は少なめだけど。」
練乳入りのミルクティーを飲み始めたのは、泣き虫だったスンギがまだ幼稚園の頃に双子の弟と妹が生まれ家に来た時。
母に抱かれて授乳してもらっている弟と妹に焼きもちを妬いたことから始まった。
「スンギのオンマなのに、スングとスアが取っちゃった。」
何人も子供を生んで育てているのに、最期の妊娠で授かった子供が双子だったからまだ幼いスングの世話をすることも、不器用な母には大変だった。
いつもミルクティーを飲んでいるスンギが、テーブルの上に置いてあった練乳を指でなめながらミルクティーを飲んでいる姿が、あまりにも寂しそうで母として可哀想になった。
双子たちを授乳するたびに、母が作ったミルクティーに練乳を入れて飲んだ時に、それがスンギにはとてもおいしく感じた。
その後も、食欲が無かったり、病気になったりした時、仕事から疲れて帰って来てもハニがそれをトレイに乗せて持って来た。
「あまりひどいなら、明日病院に行ったら?お父さんの名前を使って、診察枠取ればいいから。」
「大丈夫だよ。」
母よりも自分の方が料理の腕はいいと判っているが、それでも好きな母の手料理が好きだ。
他人からしたら、とても食べられる物でもないかもしれないが、真剣な顔をして作っている母に『まずいから食べたくない』とは言えなかった。
「お母さん・・・・・」
「ん?」
「お母さんの作った玉子焼き・・・・・・マリーも同じ味だったよ。」
「マリーの手料理を食べたの?おいしかった?」
「まぁ・・・・・・・・」
お母さんやマリーのように料理が苦手な人は、自分が料理人に向いていないことを知っているのだろ
うか。
お父さんが、お母さんの作った決しておいしくない料理を、もう何十年も食べているけどそれも相手を想っての事なのか。
こんな風にたかがミルクティーでも、おいしいとかおいしくないとかを聞きたがっているお母さんの
瞳を見ると、マリーと同じ目をしてる。
子供みたいに綺麗に光る瞳。
お母さんのこの目にお父さんは弱いのか。
「そうだ・・・・・」
スンギは思い出したようにベッドから起き上がり、机の引き出しから灰皿とライターとタバコを取り
出した。
それをハニの前に差し出した 。
「なに?」
「オレ・・・・お父さんにも言ったけど、タバコとアルコールは止める。」
「知ってるよ。」
「お父さんから聞いたの?」
「さっきね・・・・・ミルクティーを作っている時に、練乳は少なめにって・・・お父さんが言ったの。理由を聞いたら、おじいちゃんの後を継いでくれるから、そのためにタバコとアルコールを止めるって言っていたよって・・・・・」
お父さんとお母さんの間には、隠し事がないんだろうか。
「お父さんが、高校生の時からスンギがタバコやアルコールをしていた事をどうしてなにも言わなかったのか知ってる?」
「知らない・・・・」
「取り上げれば反抗するから、行けないとは思うけど自分で止めようと思った時まで放っておこうって・・・・」
そんなことをお母さんたちは話していたんだ。
「スンギは兄妹の中で一番心が弱い子だから、それを補うことが出来る様になったら部屋で隠れてタバコを吸ったりするのは止めるだろうって。病気になるまでは続けないはずだって。」
「マリーを悲しませたらダメだよ。」
「えっ?」
「今まで付き合っていた女の子ともきっちりと終わらせてね。今朝もスンギが家を出た時に、門の前でスンギを待っている子がいたから。」
その事を言った時のお母さんの悲しい顔が気になった。
まさか堅物なお父さんがオレみたいに何人もの女と付き合っていたはずがないから。
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