スンギはミルクティー 41
「この話は過去の話だからな。」
スンジョは少し考えるように間をおいて、低いが優しい声で静かに話した。
「今は家族ぐるみでうまく行っているのだから気にしなくていい。ただ、この先お前たちがどうして職種の違うマリーの家族とお父さんたちが、何かにつけて集まるのかを知ってもいいと思うから話すんだ。」
スンギはいつもとつがう父の話を最後まで聞くことにした。
「お母さんとマリーのお父さんは高校の同級生。お母さんにしたらマリーのお父さんはただの友達だったけど、マリーのお父さんはお母さんにずっと片想いをしていた。会社の為と言う名目の政略結婚。お父さんは、お母さんへの気持ちに自分でも少しは気づいていた。ただ、スンギと同じようにその思いをうまく伝える事が苦手だ。お母さんの事をからかったり意地悪したりしては、お母さんのコロコロと変わる表情を見て楽しんでいた。お父さんは学業の方は優秀だったかもしれないが、人間的には小学生並で成長がしていなかった。特に、恋愛に関しては生まれたての赤ちゃんくらいの能力しかなかった。人の事に興味がなく、人がどう考えるのかなんてどうでもよかった。それなのに、お父さんの事が好きでお父さん以外の人にはお母さんの気持ちは行かないと思っていた。それは思い込み過ぎだと気が付いたのは、お父さんの政略結婚の話が進んでいる時だった。普通に考えれば、お父さんが結婚すればお母さんがこの家にいる事が出来ないという事が判っていなかった。」
泣いているのかお父さんが目頭を押さえている。
まさかお父さんが泣くはずなんかないとは思ったが、その手を離した時に目が赤かった。
「まさか・・・・ハハハ、スンギは鋭い事を言うな。確かに結婚してもお母さんが家にいたのなら、何も知らない人はそう言っただろう。その頃に、お母さんとマリーのお父さんは付き合っていた。いや・・・・正確にはそうではないかもしれないが、お父さんの事を好きだったお母さんを慰めてくれたのは確かだ。その頃にマリーのお父さんがお母さんにプロポーズをしたと、ミナおばさんとジュリおばさんから聞かされた。平気だ、別にタイプの子じゃないし、自分には恋愛なんて関係ない・・・・・そう何度も言い聞かせていた。」
「お母さんの事好きだと気が付いたの?」
「気が付いてたが、一歩踏み出せなかった。あの日は秋には珍しく昼過ぎから雷雨で、部屋のガラスに当たる雨雫を見た時、それがお母さんの涙のような気がした。<スンジョ君・・・スンジョ君・・迎えに来て>そう呼んでいるようで・・・・いつも追いかけていたお母さんが他の人と並んで歩く人生を考えられなくて、お父さんにはお母さんしかいないと気が付いた。その後もマリーのお父さんも、お母さんの事を好きだった。お母さんに失恋した時にマリーのお母さんと出会い、お母さんの事を片想いしていた期間よりも短い期間で結婚した。マリーのお母さんクリスとお母さんは妙に気が合って、それ以来の付き合いかな?お父さんにしたら、マリーのお父さんがいなければ今の幸せは無いと思っているから、お前がマリーと結婚してくれるといいと思う。」
こんなに長くお父さんと話したことは今までなかった。
不器用なお父さんが、お母さんを愛することが出来るのなら、お父さんが自分と似ていると言ってくれたオレもマリーを生涯大切にして行ける気がする。
「もう寝るからな。あまりベッドに来ないとお母さんが呼びに来るから。」
いつになっても仲のいい両親が自慢だった。
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