スンギはミルクティー 42
「今度は大丈夫だから・・・・・ねぇ・・・食べてよ。」
昨日の今日だよ。
腹を下したあの辛さは当人にしか判んないだろう。
「夜中までトイレに行って、オレは寝不足だよ。料理人の娘なのにあんなもんしか作れんのかよ。」
みるみるうちに目に涙が滲んできたマリーに、スンギは言い過ぎたと思ったが一度口から出た言葉は戻すことは出来ない。
「なんで泣くんだ。お前、そんな風に女みたいな真似をしても似合わないぞ。」
「ひ・・・酷いよ・・・私だって普通の女の子だよ。それに昨日スンギの友達に聞くまで知らなかったんだもの。私が作ったお弁当でお腹を壊したって・・・・・・」
オレも腹を壊したことを言えば、もう二度と弁当を作って来ないと思っていた。
「昨日一日で何回トイレに駆け込んだのか判るか?」
「だって、美味しかったらキスしてと言ったらキスしてくれたじゃない。」
「そ・・・そりゃ・・・・腹を壊すと思わなかったし、少々・・いや生の里芋や、煮えていない豆だって我慢すればいいと思っただけだ。」
「今日のは本当に大丈夫・・・・パパが・・・・・・」
「ラウンジで食べるぞ。」
勢いよくスンギが立ち上がった瞬間に、二人の間に広げられたマリーが持参した弁当がものの見事に
ひっくり返った。
「酷い・・・・・・今日のはパパが傍で見ていて作ったのに・・・・」
マリーの手が鞭のように撓って、スンギの頬を打った。
「スンギとはこれっきりよ。もうお弁当も作らなければ会わないわ。さようなら!」
やっちまった・・・・・ 数年の間に女らしくなったと思ったのは間違いだった。
気の強さは昔と変わっていない。
「いってぇ・・・・馬鹿力のマリーめ。オレは謝らんからな。まずいのをうまいと言ってやったんだ感謝しろよ!ったく!」
地面に散らばった弁当箱とおかずを拾い集めた。
手で触っても判るくらいに今日のおかずは火も通り、口にしてみなくても食欲をそそりそうだった。
どんな風にキッチンに立ち、どんな風な顔でこれを作ったのか。
きっとマリーのお父さんの釜山訛りの言葉と、英語交じりのマリーの言葉が飛び交っていたのかと思うと、その光景を見てみたいような気になって来た。
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