スンギはミルクティー 52
時間外の処置室は、今日は急患も無くひっそりとしていた。
「ソン先生ありがとうございます。後の処置は私がしますから。」
「じゃ・・・病棟に行きますね。カルテは机の上に置いたままでいいですから、点滴が終わったら帰宅してください。」
内科のソン医師は、病棟患者の様子を見に処置室を後にした。
「お父さん・・・・・」
「どうした?熱もすぐに引くから・・・これが終わったら家に帰るぞ。」
「オレ・・・・どうかしたのか覚えていなくて・・・・」
「そうだろうな、熱が結構高くて・・・車の中で何度か吐いていたからな。」
記憶にあるのは、マリーの家で湯に浸かり軽い物を食べたところまで。
その後は全く記憶が無くて、かすかに覚えているのは、マリーのベッドで横になっている時にそっと口移しでマリーから氷を貰ったことだ。
「何時間雨の中にいたんだ?」
「5時間ぐらい・・・」
「そう言う所はお母さん似だな。」
「お母さん似?」
「あぁ、昔のまだ結婚する前に、夜遅い時間に一時間も外で待っていたことがあったよ。なんで言いたいことは言えるのに、いざ本当に聞きたいことになると、聞けなくて一人で勝手に落ち込んで・・・・・そんな所がスンギは似ているよ。」
あの頃のオレは、自分の殻を破ろうともがいていた。
ハニへの思いも自分でも気づき始めていたが、自分の進むべき道がまだ見つからなくて、一人暮らしをして自分を見つめ直そうとしていた。
「点滴・・・終ったな。楽にしてろよ。」
「お父さん、最近は夜勤はしないの?」
「あぁ・・・・お母さんと二人の夜を過ごしてもいいだろ?ずっとゆっくりと二人の夜を過ごしたことが無いし、孫もいる年齢になったんだから・・・・・・・それに、最近はおばあちゃんも具合が悪い時があるから、夜は家に医者と看護師がいれば安心だろ?」
そうだよな。 お父さんとお母さんは、もうすぐ60歳になる・・・・・
オレが結婚したら、美味しい物を作って・・・・
結婚?
「あ・・・・」
「どうかしたか?」
「オレ・・・・マリーにプロポーズした・・・・・・」
「らしいな。」
「知ってたの?」
「電話口で聞いたよ。大学を出てから結婚するんだろ?」
「うん・・・・おじいちゃんの店で二~三年修行をして、独り立ちが出来たらマリーと結婚した
い。」
「店・・今から引き継いだ方がいい。」
どうして今なのか・・・ 確かに最近、しんどいと言って店を閉めている時が多い。
「おじいちゃん、跡継ぎが出来たらやめたいと言っていただろう。腰が痛くて立っていられないみたいだ。先代のおばあちゃんから受け継いで、一人で頑張ったもんな。店をしながら、お母さんを育てて・・・お母さんも心配していたから、大学の単位が問題なかったら、本格的に店を引き継ぐために泊まり込んだ方がいいよ。」
考えたらじいちゃんは元気そうにしていても80歳をとっくに超えていた。
マリーのお父さんがこっちに来るのも、修行していた時に世話になったからと言って、麺を打ちに来てくれていた。
パルボクばあちゃんの店を、潰すわけにはいかないから、腰が痛くてもじいちゃんは何とかやっていた。
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