スンギはミルクティー 53
家に帰ってからお母さんが心配そうにオレの顔を見ていた。
滅多に熱など出さないオレが、熱を出してマリーの家で倒れたと聞いたのだから心配してもおかしく
ない。
枕元に置いてある時計のアラームを止めて時間を見ると、寝すぎてしまったのか10時を過ぎてい
た。
「ヤバ・・・・授業始まったか・・・今日はまだ熱もあるみたいだし、前に受けた事がある単元だから、寝ていた方がいいか・・・・」
携帯を手にすると、一晩でメールが100件も溜まっていた。
勿論、送信してきたのはマリーだが、着信音が聞こえない程に眠っていた事を知った。
「100件か・・・・・ストーカー並みだな。」
メールの内容は、大したことは書いていなくて『熱は下がったか』『何か食べたい物は無いか』『着替えはしているのか』と、同じ内容で数分刻みで送信されていた。
「お前はオレの母親か・・・・・」
「スンギ・・・スンギ・・・・」
「お母さん?」
静かにドアが開いて、隙間から子供の様にハニは顔を覗かせた。
「入ってもいい?」
ハニはいつもそうだが、いいと言わなくても子供の部屋に入って来るし、子供たちもそれに慣れっこなのか何も言わなかった。
「ミルクティー・・飲む?練乳が切れていたからお砂糖とミルクを混ぜて作ったの。加減してミルクティーに入れてね。」
「お母さん・・・・」
「何?」
「練乳の代わりに、砂糖とミルクを混ぜたのなら、何もミルクピッチャーに入れなくても直接ミルクティーに砂糖を入れても同じだと思うけど・・・・・」
「そうだった・・・同じだね。」
こんなお母さんは好きだ。
こんなお母さんだから、お父さんはいつもお母さんを見て嬉しそうに笑うんだ。
「今日はオレの為に仕事を休んだの?」
「そうでもないよ・・・フィマンが幼稚園から今日早く帰る日だから、家に私がいないと可哀想でし
ょ?」
フィマンはスンスク兄さんの妻のミラが命を掛けて生んだ子供。
希望と名付けたのに、ミラ義姉さんは抱く事も授乳もすることなく天に召された。
家族みんなが、フィマンを大切にしている可哀想なオレの甥。
「スンスク兄さんは、再婚はしないの?」
「一度お見合いをさせたけど・・・ミラ以外は愛せないって・・・」
「血筋だね。」
「血筋?」
「お父さんもお母さんもそうだし、スンハ姉さんもスンリ兄さんもスンミ姉さんもみんな初恋の人と結婚をした。オレだけ、何人もの女と付き合ったから違うかな?」
「スンギもお母さんたちと同じだよ。沢山の女の子と付き合ったけど、マリーが初恋だったでしょ?」
「まあね・・・・」
「それに、スンミはバレエの先生とは、ヒョンジャと知り合う前に付き合っていたから・・・・」
「バレエの先生の事は、スンミ姉さんは好きじゃなくて憧れだよ。お父さんから離れたくて全然違うタイプの人に惹かれただけ。あの時はオレはまだ高校生だったけど、そう思ったよ。お父さんはあまりにも完璧過ぎるから。」
久しぶりに見るお母さんの顔に、いくつかのしわが見えた。
気が付けは髪は染めているけど、白い物もチラチラとしている。
高校生の時から、タバコに飲酒で心配させて何度も泣かせた。
お父さんが何も言わないのをいいことに、世間で理想的な家族と言われることへの反抗だった。
お父さんの教育方針のお陰で、一度も叱られなかった代わりに、自分で善悪が判るようになってい
た。
「お母さん・・・・愛してる。」
スンギはミルクティーのカップを置き、ベッドサイドの椅子に座っているハニに抱き付いた。
「どうしたのよ・・・・・愛してるなんて・・・・お父さんにも言われた事が無いのに。」
「言われた事が無いの?」
「一度も・・・もっとも口に出して言う人じゃないことくらいわかっているけどね。捻くれスンジョをいつか私の意のままにさせて見せるから。」
お母さんは知らないのかな?
お父さんはお母さんの意のままだよ。
夜勤をしないのはお母さんと一緒に過ごしたいからだと言う事を、お父さんが言うはずがない事もオレは判っているけどね。
「ほら、まだ熱があるんだから、お母さんに愛してるなんて言わないで寝ていなさい。愛してるは、これからはマリーにだけ言うのよ。」
きっとお母さんはオレがマリーと結婚をしたいと言う事を知っているんだ。
お父さんは、おばあちゃんに聞かせないようにお母さんと夜ふたりの時に話したんだろうな。
「フィマンのおやつを用意しておかないといけないから行くね・・・・・・・あっ!それと・・・おじいちゃんの店を継いでくれるという事・・・・・おじいちゃんに話したら喜んでいたよ。ありがと
う。」
ニッコリと笑うお母さんの笑顔は、お父さんには悪いけど・・・オレも大好きだ。
「お母さん、お父さんはお母さんの事を世界一愛していると思うよ。」
「親をからかわないで,寝ていないとマリーと結婚をさせないから。」
照れているお母さんは、本当に可愛いし綺麗だ。
お母さんとお父さんがずっと一緒にいられるようにオレ達兄弟で助けて行くね。
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