あなたに逢いたくて 39
「何でも努力しなくても出来る人だったから、私が人の何杯も努力しているのに出来ない事に、努力をする必要のない人だったから、人が努力をすると言う意味が判らなくていつもイライラしていたの。勉強するだけなら一人でも出来る、だから大学に行っても意味がないから進学したくないと言ったときは家の中が大変だった。やっと受験する気になってくれて、何でも出来る彼がセンター試験も完璧で、家族中がやる気になって来れて本当に良かったと大喜びだった。それなのに私のせいでテハン大を受験出来なくなったのに何故か嬉しそうな顔をして、ハニと同じパランに行って、お前のせいでハラハラする生活をしてみたくなった・・・そう言ったの。」
ジョンスは、ハニが幸せそうに話す様子を静かに聞いていた。
「ご主人は、ハニさんの事をずっとそばで見ていたかったのですね。」
ハニは首を横に振った。
「ううん・・・・この頃は、私の勝手な片想いだったの・・・・」
「そうですか?ハニさんを好きだからずっと見ているからこそ、ハニさんとハラハラした生活がしたかったと思います。」
「そうですか?付き合い始めたのは、そのずっと後なんですよ。」
これ以上は言えない。
言ってしまえばスンジョ君とのことが・・・事故で亡くなったわけでもなくて、結婚もしていないことが判ってしまう。
「ご主人が羨ましいです。僕はハニさんにそんな素敵な笑顔で思い出を語って貰う事もできません。僕はテハン大の医学部に入るのに必死で、それこそ人がどんな努力をしているのか知る事も出来ないくらいに、全く余裕がなかったんですよ。」
天才スンジョとは違うが、努力して医者になったジョンス。
彼は、外見の気弱そうな感じとは違い心が思った以上に強そうだった。
スンジョは、天才ゆえに出来て当たり前だと人々からそう思われていた。
毎日がゆとりあるようでゆとりなどなくて、今にも切れてしまいそうなピンと張った糸だったのかもしれない。
「さあ、もう帰りましょうか。ギミさんが、予定通りに帰らないとまたからかいますから。」
ふたりは立ち上がって、荷物を持つとゆっくりと並んで歩き始めた。
「ハニさんが、ご主人を今でもとても愛していらっしゃるのはよく判ります。僕の事は結婚とかを考えないで、親しくて話し易い友人の一人に加えていただけませんか?」
ジョンスの下心のない優しさがハニは有りがたかった。
患者が多いわけでもないが、訪問をしては体調を聞いたり、湿布を張り替えたりして、遊ぶ暇もない程に忙しくてスンハの相手も出来なかった。
スンハを可愛がり、またスンハも懐いていて、気持ちに裏表がなくいい人であったが、自分の気持ちがスンジョから離れることが出来ないでいるのに、ギミが言うように諦めて結婚する事は考えられなかった。
「スンジョ君、何度店に来ても教える事は出来ない。ハニは向こうで、ここでのことは忘れて元気にしているから。」
「おじさん・・・何かオレに隠しているんじゃないですか?」
ギドンはギクリとした。
「何も隠していないよ。身内でもないスンジョ君に、本当の事を言ったり隠したりする必要もないと思うけどな。」
スンジョは、グミが言っていたことをギドンに聞こうか迷っていた。
気を付けてはいても妊娠は絶対にしないとも言い切れなかった。
「ハニに何か変わった事でもあったのですか?オレ達、見合いの前は結婚するつもりで付き合っていました。だから・・・・・・」
「悪いなスンジョ君、もう直ぐ店を開けないといけないんだ。開ける前に帰ってくれないか?」
スンジョは、両親と三人で訪れてからは何度もひとりでギドンの店に来ていた。
ハニのことを聞きだそうにも、ギドンがあまり話をしたがらずに自分と視線を合わせない事で、もしかしたらグミが言ったことが当たっているのではないかと思った。
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