スンギはミルクティー 57

≪ソ・パルボクククス≫の店で本格的に働くのなら、一番得意な物を作るようスンギはギドンに言われた。 

店のカウンターから、同じ顔をした女の子と男の子がギドンに手順からチェックをされている兄の様子をワクワクしながら見ていた。 

「おじいちゃん、お兄ちゃんが受かる様に適当に採点してね。」

 「本当だよ。僕、おやつも抜いて来たからお腹がペコペコだ。」 

「お客に出す食べ物に手抜きは出来ない。パルボク女史は優しい人だったけど、仕事には身内であっても厳しかったからね。その教えをいくら可愛い孫でも守ってもらわないかん。」

 ギドンはスンギの腕を信じているが、今までここで賄いを作ったのとは違う事を知ってもらわないといけないと思っている。 


「完成だ。」

 スングとスアは、スンギの完成と言う言葉にカウンターから離れて座席に急いで移った。

 スンギの作った料理は、ハニが仕事で家を空けグミが旅行でいない時に食べていたが、家で見る出来と店で見る出来とは違って見えた。

 「おじいちゃんは食べないの?」

 「おじいちゃんは作っている時に調味料の量や盛り付けの祭典だけでいいんだ。

お客さんに出す物を作らないといけないから、スングとスアもお店に行って食べているつもりで感想を教えなさい。」 

「甘すぎる・・・・・」

 「本当・・・お兄ちゃんは練乳入りのミルクティーを飲んでいるから、甘過ぎても気が付かないのかなぁ。」 

双子たちが口にしたのは、スンギが人生で一番最初に作った玉子焼き。 


母の殻入りの玉子焼きではなく、殻の入っていない玉子焼きを作りたくてキッチンに立ってその味を褒められてから、玉子焼きには自信があった。

 「そうだな・・・甘い物を食べれば甘さに鈍感になり、おまけにタバコと酒を飲んでいたから、舌が麻痺していた。」

 「でも、美味ししい・・・お兄ちゃんの作った玉子焼きは世界一だ。」

こんな採用の仕方をギドンは一度もした事が無かった。

 ただ、孫が自分の後を継いでくれることが嬉しくて、傍でその様子を見ていたかっただけ。 


「採用だな。髪も短くして黒く染めて来たし、ピアスも外している。ピアスが食事に入ったらいかんからな。勿論、指輪もダメだから。」

 店に来てはテスト結果に落ち込む孫をただ見ていることしか出来なかったが、いつの間にか大学生になり好きな女の子と結婚したいために、この店で仕事をしたいと言って来た。

 先代のパルボクから二代で終わりかと思っていた店も、孫が引き継いでくれることが年老いて立っている事も辛いギドンにしたら、天国にいるパルボク女史と最愛の妻と親友スチャンからの贈り物だと思った。 


「で・・・マリーとはいつ結婚するんだ?」 

「大学を出て、じいちゃんが店を引退してから。」 

「お兄ちゃん、結婚するの?」

 何も知らなかったスング達に聞かれて、ちょっと気恥ずかしかった。

 「あぁ・・・」

 「キスした?」 

小さな子供が大人みたいに無邪気に聞いて来るスアの期待をしている目を見ることが出来なかった。 「ガキがそんなことを聞くな。」 

「ガキじゃないよ。中学生だし・・・・春から高校生だよ。」 

スアが聞けばスングも聞きたくなって来る。 

兄が照れた顔を見るのが楽しいのか、からかう事が止められそうもなかった。 


「キスくらいしているに決まってるだろ。お兄ちゃんは大人なんだからもっとすごい事もしているかもしれないよ。」 

ギョッとするギドンとスンギを見て、同じ顔をした双子はニヤリと笑った。

 その顔が父とよく似ていると思うと、怒る気にもならない。 

「双子たち、じいちゃんの店ではそう言う話はしないで欲しいな。それと、スンギも・・・・・じいちゃんはそう簡単に引退はしないからな。厳しくするから覚悟しておくんだよ。」 

「じいちゃんに叱られる前にオレが蹴っ飛ばしてやるよ。」

 7人いる孫の中で一番傷つきやすいスンギを、ギドンは一番心配していた。 

ハニと似ているからではなく、完璧な父と兄弟のいる家が重荷になっていると判っていたから。 


「片付けはじいちゃんがするから、遅くならないうちに家に帰りなさい。」 

「家に帰ったら、アッパとオンマの邪魔になるから今夜はここに泊まって行くってお兄ちゃんが言っていたよ。」 

父と母が二人だけで子供の事を気にしないでいる時間を作ってあげようと、スンギは双子の弟と妹にそう言って店まで連れて来たのだった。 

ハニー's Room

スンジョだけしか好きになれないハニと、ハニの前でしか本当の自分になれないスンジョの物語は、永遠の私達の夢恋物語

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