言えない恋じゃないけれど(スア) 12
異様な空気が漂っているのか、元々1クラスは大きな声で騒いだりするクラスではなく、静かにテキストを開いて演習問題に取り組んでいたりする生徒が多いが、今日は演習問題をやる生徒も、テキストを開いて読んでいる生徒も息を潜めている。
「おい、さっきのテスト、どうして間違えたんだ。」
「さぁ~別に1問間違えたって大丈夫でしょう。」
普通に考えても1問くらい不正解でも気にすることもないが、スングやスアとインハの3人のペクには今まで満点取るのが普通だった。
時々携帯をポケットから出して、誰かとメールのやり取りをしている様子のスアは、メールが届くたびに嬉しそうに頬を染めて笑っている。
「何か面白いのか?」
「別に?」
何か秘密をしているようなあの様子が気になるが、それを聞く事をスングはしない。
昨日までのスアと違う部分を探すが、それが何なのかを知る必要もないとも思っていた。
「珍しいわね、スアが友達と出かけるなんて。」
「女子会をしようと誘われたの。」
「だからなのね、スングがスアを睨みつけていたのは。」
「双子でもね、高校3年になってもいつも一緒にいなければいけない理由があるがないもの。」
そう言ってギルと待ち合わせをしている駅に行こうと、玄関で靴を履いていた時に母と交わした会話。
母にも秘密にすることはしたくないが、まだ始まったばかりの初めての恋。
母に話せば、スングの耳にも入ることは判っていた。
母の親友の息子が好きになったなんて、それさえも恥ずかしくて言えない。
ギルとは小さい頃からよく知っている間柄だから。
待ち合わせの駅に着くと、ギルが車で待っていた。
いつもミナの仕事先で見るギルとは違って、ラフな服装がまたギルを素敵な大人に見えた。
「やっぱりスングを誘ってこなかったんだな。」
「誘えなかったし、誘わなかった。だって、初めてのデートを兄妹で行くのなんておかしいでしょ?」
ギルはスアのハッキリと言った言葉を聞いてニコッと笑い、小さな子供にするようにスアの頭をクシャクシャとした。
「さぁ・・乗って・・・」
助手席のドアを開けると、一人しか座ることが出来ない恋人になったら座りたい運転席の隣の助手席。
シートベルトを締めると、ギルは公演に向かって車を走らせた。
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