言えない恋じゃないけれど(スア) 14
遊園地デートは楽しくて『時間の経つのが早い』と口には出さないが、スアもギルもそう思っていた。
気が付けば辺りはすっかりと暗くなり、それぞれのアトラクションが奇麗にライトアップされていた。
「最後・・・・最後だから・・・・」
「はは・・・閉園までいるとは思わなかったな。おじさんもおばさんも心配していないか?」
スアは少しでもギルと一緒にいたかった。
父に叱られようと、母に小言を言われようと、スングに誰とどこに行っていたのかと聞かれようと、そんなことは気にならないわけではないが、高3になったらそんなに会えなくなる。
会えなくても理由を付けて会うかもしれないが。
「平気・・だから、最後にこれに乗りたい。」
「本当に乗るのか?」
「うん、やっぱり締めには絶叫系よ・・・・まさか・・・嫌い・・・とか?」
「バカにするなよ。オレはスアよりも10歳も年上だぞ。たかがレールの上を走る箱だろう。」
強がってみても本当のギルは絶叫系は遊園地のアトラクションの中で一番苦手で、出来れば絶叫系だけは避けて行きたかった。
外が暗くなっているのと、乗り口までが薄暗かったのがよかった。
明るい時間だったら愛想笑いをしても、きっと顔は引きつり冷や汗を掻いている事をスアに気づかれてしまう。
一組一組と乗り込んで行くと、冷や汗が半端なく流れている。
ここまで来たのなら覚悟をしなければいけないが、出来れば先頭ではなくて真ん中の座席になりたい。
いやいや・・・それを願ったら逆に先頭になってしまうから、先頭になれと心の中で祈るしかない。
「ギルさん、どうしたの?」
「は?何が」
声が震えているのが判らないように、出来るだけ短い言葉で返事をした。
「目が潤んでる・・・・・・」
「う・・嬉しくて・・・はは・・・」
「そう!先頭になるといいね。」
冗談じゃない!
背の高いスアは爪先立ちになって、さらに高い所から見下ろすようにイチ・ニとコースターに乗る順番を数えていた。
「多分先頭みたい。」
「せ・・先頭?」
スアの数えた通り、先頭の車両に乗ることになってしまった。
ただ願うのは、戻って来るまで安全ベルトが外れない事を願うだけ。
スアの細い指がギルの髪の毛を掻き上げて、水で濡らしたハンカチで顔を拭いていた。
「大丈夫?」
「悪・・・い・・・・少しこのままに・・・・・」
情けない。
多分スアにしたら初めての記念のデートだったに違いないのに悪い事をした。
「帰れる?私免許持っていないけど・・・・・・・」 ギ
ルはポケットから携帯を出してスアに渡した。
「いつも使う代行が登録してあるから・・・・電話を掛けて・・・オレの友達だから家まで送ってくれる・・・スアはタクシーで帰っていいから。」
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