言えない恋じゃないけれど(スア) 16
ギルは友人の代行運転で暗くて寒い遊園地の駐車場からマンションに着くと、ふら付いているギルの身体を支えてもらいながら車から降りた。
「バカな奴だよ。絶叫系は乗れないくせにカッコつけて。」
「うるさい。ほら、代行料とタクシー代。」
「タクシーを使っていいのか?」
「お前じゃないよ、彼女をタクシーで送ってほしい。」
未成年のスアをこんな遅い時間まで家に帰さないままでいてはいけない。
「あ・・・・ギルさんを部屋に連れて行ってから帰りますから・・・・自分でタクシーを呼べます。」
今更家に帰る気なんてなかった。
ギルさんの友達が来た時は、吐き気は治まっていたみたいだけど、独り暮らしの部屋で苦しむのかと思うと・・・・・
「ほら、この部屋だ。」
鍵を開けると直ぐに玄関内の電気が点灯した。
自分のスリッパを出して履くと、もう一足女性が好みそうなほどに綺麗なスリッパをスアの前に置いた。
「未使用じゃないけれど、まだ数回しか履いてない。
何も考えずにスリッパを履くと、ギルに続いて部屋の中央辺りまで来た。
「今から寝るから、スアは家に帰るんだ。ちゃんとここまで来たから安心だろ。」
未成年のスアの帰宅時間を気にしているギルは、スアをグルッとまた玄関の方に向きを変えて背中を押した。
「本当にもう大丈夫だから。」
何度も大丈夫だと言っているが、いつものギルとは違ってまだ具合が悪く見える。
スアはギルから少し離れると、クルッと振り返ってギルに抱き付いた。
「ギルさんがこんなに具合が悪くなるくらいに絶叫系が苦手なのに、誘ってごめんなさい。でも、明日の朝までここにいさせて。」
「ダメだよ。間違いがあったらマズいし、スアはまだ未成年で高校2年だろ。」
「間違いがあってもいいから・・・朝までギルさんの看病をさせて。」
「間違いがあってもって・・・・意味判ってんのか?今具合が悪いって言ってもオレは男だ。スアに変なことをするかもしれないぞ。」
「変な事って?変な事って何よ。」
「そんなこと言えるかよ。」
家に友達が具合が悪いから付き添うと言って電話を入れてしまったから、そう簡単に帰るわけにもいかない。
ギルの部屋に泊まると決めた時から、何があっても覚悟できているつもりだ。
フラッとしたギルの身体が壁にドンと当るとスアは倒れないように身体を支えた。
「スアが困らせるから・・・・何も食っていないしフラフラするよ。」
ギルが油断をした隙に、スアは背伸びをしてギルの唇にキスをした。
「本当にギルさんが好きなの。好きだから泊めて看病をさせて。」
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