あなたに逢いたくて 43

ウファ看護大学____

生徒の殆んどが、通学が困難な地域に住んでいるため大学敷地内にある寮に入るか、診療所等の現場で看護技術を学びながら通信で勉強をしている。

これから教授と一緒に行く大学か、それてとももう一つの大学か。

どちらの大学でハニが勉強をしているのか判らないが、二分の一の確率でも会える事をスンジョは期待した。

ハニと挨拶も交わさず別れたあの時と同じ駅で電車に乗り込むと、外はいつの間にかあの日と同じような雨が降っていた。

シトシトと振る雨はハニの泣き顔を思い出す。

今回は教授に同行だから、自分の自由になる時間も無ければ行動も出来ない。

「ペク君、この書類を先方の学生課に出して来てくれないか。」

毎年、ウファ看護大学から国家試験を終えて卒業した学生を数名をパラン病院に学生を送っている。

その為の推薦状の書類が封筒に入っている。

「おばあちゃん、今日はこんな天気で、波が荒くなったりしてもしかしたら帰りには船が出ないかもしれないからスンハを連れていった方がいいかなぁ・・・・」

ハニは朝から降り出した雨と強くなり始めた風を気にしながら、台所で片付け物をしているギミに聞いた。

「そうだねぇ・・・聞き分けのいい子供だけど、おばあちゃんはオッパイが出ないからねぇ・・・スンハがオンマのオッパイが欲しくて泣いても、どうにもできないし、夜中に急患の連絡が入ったら、ひとりで寝かせて出かけなきゃならんからね。」

ハニは万が一のため、何日か分の二人分の着替えの用意をした。

巡回に廻るジョンスが、途中に港を通って行くからと言って、ハニたちの荷物を車に荷物を乗せて、スンハを抱いたハニが乗り込んだ。

「酷い雨になりそうですね、ハニさん。」

「本当・・・私、雨は嫌いなんです。嫌な思い出があって・・・」

「嫌な思い出ですか?」

どこか、悲しい表情で遠くを見ているハニの心に深い傷があるのだろうと思った。

大人しくハニに抱かれているスンハをバックミラー越しに見ると、ハニとお揃いの指輪が通されたチェーンが首に掛けられていた。

「雨の日がご主人の亡くなった日ですか?」

亡くなった日・・・・

そうかもしれない。

スンジョ君と会えない事は、私が死んだ日にもなるかもしれない。

スンジョ君がいないと生きている気持にもなれない。

でも、スンハが傍にいてくれるから、私は生きていられるのだと思う。

スンジョと最後に会った日は、約二年前のこんな強い風が吹く雨の日。

雨の中をずぶ濡れになって、駅までハニを見送る為に駆け付けて来てくれたスンジョの姿を思い出す。

何時も堂々としていたスンジョの、今にも倒れそうなほどに青白くて哀しい顔が、ずっと忘れる事が出来なかった。

いつも堂々と人前に立ち、決して去って行く人を追いかけたりしなかったスンジョが、人目を気にしないでハニの名前を呼んでいたことはガラス越しでも判った。

「ハニさん、着きましたよ。半島の方まで送って行きたいのですが、こんな日は身体の具合が悪い人が多くて・・・・・・」

「キム先生、ありがとうございます。ここまで連れて来てくださっただけでも、スンハを連れているので随分助かりました。さあスンハ、キム先生にありがとうは?」

スンハを抱いてコートを着ているハニの胸元からヒョッコリと顔を出して、かわいらしく笑った。

「ありがとう・・・・ジョンスゥ」

「スンハ、行ってらっしゃい。オンマと一緒に行けることになって良かったね。」

ジョンスはスンハの頭を撫でて、自分を待っている患者を診る為に巡回に行った。

「やあ、ハニ。今日はスンハと一緒に半島に行くのか?」

「はい・・・こんな天気じゃ、帰りの船も判らないですよね。」

切符売り場のおじさんも、ハニとスンハを実の娘のようにかわいがっている。

「多分、今日の夕方の帰りの便は出ないだろうな。冬の波は荒いからなぁ。スンハも久しぶりに半島に行くんだから美味しいものでもオンマと食べてくるといい。」

真っ黒に陽に焼けた顔に何本か歯が抜けているから、目がギョロッとしていて怖い顔に見えるが、笑うと抜けている歯のお蔭でかえって親しみやすく感じる。

スンハは小さな手を一生懸命に振って、切符売り場のおじさんに愛想を振りまいて船に乗り込んだ。

ハニー's Room

スンジョだけしか好きになれないハニと、ハニの前でしか本当の自分になれないスンジョの物語は、永遠の私達の夢恋物語

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