言えない恋じゃないけれど(スア) 25

「もっと話しても平気か?」

 子供でもないとはいえまだ高校生のスアに、自分の恋愛話を言うのはあまりいい事ではないが、ずっと胸の中にしまっていた想いを誰かに聞いてもらいたいと言う思いもあった。 

「それなりの事もあったし、聞きたくないと思うけど・・・・・・」 

「聞きたい!いい事も悪い事もギルさんの事をもっと聞きたい!」 


平気な振りをしたけど、本当は私は平気なんかじゃない。

 でも、聞きたい。

 あのスタイルのいい大人な女性とどう付き合っていたのか。

 私は子供かも知れないけど、ギルさんが好きだから何もかも聞きたい。 


一緒に暮らし始めたばかりの時は、飯事(ままごと)みたいな同棲だった。

 始めてオレの部屋に来たあの日のミニョンのままでいたのなら、別れる事は無かったのかもしれない。

 「凄いね。私と同じ年なのに、こんなに広い部屋で住んでいるなんて。」 

「お袋の前の仕事部屋として買った部屋だからな。」

 「家賃・・・・少しは払うけど・・・・・」

 「いらないよ。帰って来たら『お帰り』『ただいま』を言うだけで。」 

当然、ミニョンの事はグラビアのファンだと言う事だけで部屋も最初は別々だったよ。 


「ただいま。」

 玄関を開けて靴を脱げばお帰りと言ってくれるミニョンがその日はいなかった。 

ダイニングテーブルの上に置かれたメモが一枚。  


<新しい仕事の打ち合わせがあるから、今日は遅くなりそう> 

マネージャーを付けていなかったから、相変わらずお互いの仕事が重なってしまう事は無くならなかった。

 冷蔵庫を開けて、ミニョンが帰って来たら一緒に食べようと、彼女が下拵えをしてくれた食材を、彼女のメモの通りに調理をした。 

どんなに大変な仕事でも10時には帰宅をすると言うのが、ミニョンの中で決めていた事。 

肌の為には早く化粧を落として、楽な服で寛ぎたい。 

それなのにその日は、深夜になっても帰って来なかった。 

ただのファンだと思っていても、オレはミニョンが帰って来ない事にイライラして、心配でたまらなかった。 

あの業界はいつまでもニコニコと笑って写真に納まっていればいいものではない事は、オレもミニョンも判っていたし少し前からもう少し大人な仕事も増やして欲しいと、いつも仕事を貰っていた相手から言われ続けていたから。 


「1時か・・・・・・・」

 1時になってようやくミニョンが帰って来た。

 夜中だから他の部屋の人たちを気にし、オレがもう休んでいるからとオレを気にして出来るだけ音をたてないように部屋に入って来た。

 ダウンライトにしたダイニングにオレがいるとは思っていなかったミニョンは、部屋の中ほどまで来て椅子に座って待っていたオレを見て驚いた。 

「起きていたの?」

 「食事は一緒にしようって約束しただろう?待ってたよ。」 

ニッコリと笑ったオレの顔を見てミニョンは急に泣き出した。

 どう声を掛けてもいいのか判らなかったが、ダイニングテーブルに着くだろうと思ったけど、両手で顔を覆って泣くミニョンが酷く傷ついているようでそのまま泣かせたくない気持になった。 

「ミニョン・・・・・」

 守ってあげたくて、初めてミニョンを抱きしめた。

 写真で見ていたよりも一緒に生活をして見ていたミニョンは思ったよりも細くて小さかった。

 何も言わずに抱きしめたのに、ミニョンは嫌がらずそのままオレの腕の中で泣いていた。

 

「何かあったのか?」 

「今日の仕事ね・・・・・・男の人と絡む写真だったの・・・・でもね・・・私出来なくて・・・だって今まで男の人とそんな事をしたことが無いから・・・・・・」 

高校を出て本当はモデルになりたかったと言っていたミニョン。

 仕事を選ばないでここまで来たら、モデルとしてよりもグラビアの方がギャラがいいからといつの間にか諦めた形になっていた。 

「そうか・・・・・・・」

 「で・・・ね・・どうしてギルと一緒に住んでいるのか知られたのか分らないのだけど・・・・男と暮らしているのに、何も知らない初心な振りをするなと怒鳴られたの・・・・・・」 

顔をひきつらせながらそれでも必死になって、監督の言うとおりに屈辱的な写真を何枚か撮ったが、その日は夕方からの仕事で相手の男性タレントも続きは明後日にすることになったと泣いていた。 


「ミニョン・・・・・・オレが・・・・ミニョンの初めてでもいいか?」 

仕事をするためにと言う気持ちでいようと自分にそう言い聞かせたが、ミニョンがそれまでも何人かの仕事関係の人にベッドを共にするようにと強要されている話を聞いていたから。

 一ファンとしてではなく、ミニョンを誰にも渡したくないという恋愛感情がいつも子心の中で燻ぶっていたのを抑えきれなくなっていた。 

「いいよ、そんな無理に。私、監督から先輩たちのビデオを借りて来たの。いつかは動きもある仕事をして欲しいって・・・・・この仕事はそう言う仕事なんだよね。いつまでもカメラに向かってポーズをとっていることは無理みたい。」

 「そうじゃない・・・・・ミニョンが好きだから・・・」

 「ギル・・・・」

 「でも、ミニョンがオレの事はそう言う対象に見ていないことは判っているから嫌ならいい。」

 「ギル・・・・・・・私ギルの事が好き・・・・・ずっとギルと同じ部屋、同じベッドで寝たいと思っていたの。でもギルは家賃が大変だから私をこの部屋に連れて来てくれたと思っていたから。」 

お互いこの時は真剣な気持ちだった。 


ミニョンを裏切ったのはオレだから。

 だからミニョンがこの部屋を出て行ったことを、責める気持ちにもならなかった。 

ハニー's Room

スンジョだけしか好きになれないハニと、ハニの前でしか本当の自分になれないスンジョの物語は、永遠の私達の夢恋物語

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