言えない恋じゃないけれど(スア) 29
「またどこかにデートに連れて行ってくれる?」
「こんなオレでいいのなら、スアの彼氏が出来るまでの間ね。」
ミニョンとよく似ている。
オレが手を振って見送ると、ピョンピョンと飛び跳ねて振り返りながら何度も手を振る。
あのミニョンの笑顔をオレは消してしまった。
あの日の事はキエにもお袋や親父にも言えないし、勿論スアにも言えないし誰にも言う事は無い。
スアが帰った部屋は、あの日病院から連れて帰ることの出来なかったミニョクがいなくなった部屋と似ていた。
ミニョンは冷たくなった息子の身体を一生懸命に擦っていた。
そうすれば目を覚ましてくれるのではないかと思っているようで、見ているのも辛かった。
「ギル・・・ミニョクの所、そばににいたい・・・・・この部屋じゃなくてミニョクの所に・・・・・」
「ギル、ミニョンを部屋に連れて行ってあげなさい。後は母さんと父さんが手配しておくから。キエもギルとミニョンに一緒に行きなさい。」
泣き続けるミニョンを連れて、帰って来た悲しい部屋。
ベビーベッドを買わないでオレ達と一緒に眠っていた大型のベッド。
ミニョクの物は哺乳瓶と可愛らしい絵が書かれた食器に小さな衣類。
この部屋にもっとミニョクの場所を作ってあげていればよかったかもしれない。
「キエ、帰っていいよ。ミニョンも落ち着いたから、あとはオレが・・・・・・・」
「判ったわ・・明日斎場でね・・・」
キエも辛そうだった。
ミニョンとオレが仕事の時はこの部屋で、ミニョクの世話をしていてくれたから。
キエを送り出してベッドルームに向かうと、ミニョンは残っているミニョクの衣類を持ってそれを顔に押し当てて泣いていた。
「ミニョン・・・・・」
「私が、マネージャーが電話に出た時に気が付いていれば・・・・・私が死なせてしまった・・・・」
「ミニョンのせいじゃない。オレがミニョンの仕事に差障るからと、生まれたことも公にしなかったからいけない。オレ達ちゃんとした夫婦になろうか?」
「ギル・・・・・・」
本心だった。
ミニョクを失ったから思いついたわけでもなく、ミニョクの両親として考えた 本心だった。
一緒に暮らして籍を入れてはいなかったが、オレ達は夫婦でミニョクはオレ達夫婦の子供として生まれたから。
「ミニョンが許してくれるのなら、ミニョクと言う子供がいてオレ達はずっと結婚をしていなかったが夫婦だったと公表してもいいかな?」
「ギル・・・・嬉しいけど・・・ミニョクの事は言いたくない。ありもしない事を面白おかしく人に伝わるのが嫌。ミニョクは私たちにとって大切なたった一人の子供だから・・・・・・」
ミニョンの事務所側はオレ達が結婚はしていないが夫婦同然の関係だと言う事を伏せておきたいと言って、公表はしないししてほしくないと言っていた。
ミニョクを亡くしてオレ達のギクシャクした関係も少しずつ元に戻って来たが、ミニョンがいない時にオレ一人になるとミニョクを思い出し、ミニョンもオレがいないで一人の時はミニョクを思い出していた。
別れる事になったいきさつは何なのか・・・・・・きっとスアは気になるだろう。
オレがそんな男だと思ったら、スアもオレに愛想を尽かすはず。
「ギル・・・・・子供が出来たみたい・・・・」
「堕ろせよ。」
「どうして?」
「ミニョクの事を忘れる事が出来ないから。もしその子を生むのなら、オレと別れるかミニョクの事を公表する事を決めるかにしろ。」
言ってはいけない事をオレは言ってしまった。
ミニョンは、翌朝早く最低限の荷物を持ってこの部屋を出て行った。
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