あなたに逢いたくて 45
すぐ近くにいるのに、気づかない二人。
一度外れた歯車は、もう戻る事は出来ないのか・・・
スンジョは、教授の講演を聞きに来ている学生の顔を見るが、その中にハニの姿は見つけられなかった。
ハニは、ちょうどその時間に来月の看護師の国家試験の為に、プレテストの解説と本試験の注意点を聞いていた。
スンジョと出会う前のハニなら、皆と一緒になって解りもしないのにスンジョ見たさに講演を聞いて・・・見ていたが、今は少しでもスンジョとの関わる仕事をする為に、昔のハニとは別人のように必死に勉強をしていた。
「ソン教授、本当に今日はありがとうございました。天気もこんなに悪いので、日帰りは大変でしょうから、お部屋を用意致しますのに・・・」
まだ、外は雨が強く降っていた。
「申し訳ないです。彼は学生なので私に同行したことで明日の授業が受けられなくなってはいけませんので。」
そんな話を教授がしていると、スンジョのズボンが何かに引っ張られる感じがした。
スンジョは、そちらを見ると一歳を過ぎたくらいの小さな女の子がスンジョの顔を見上げてニッコリと笑った。
「アッパ・・・抱っこ・・・」
オレに抱きついたその幼い女の子は、笑った顔がハニによく似ていて、自分とは無関係なのに、ハニともし結婚をしたらこんな子供が生まれたのかもしれないと思うと、見ず知らずの人の子供には思えなかった。
「すみません・・・スンハちゃん、こっちにおいで。アッパじゃないのよ、お兄さんでしょ。オンマがもう直ぐお迎えに来るから、託児室に戻ろうね。」
スンハはスンジョの足にしがみつぎ、離れたくないという意思を示そうと必死に抵抗した。
「いいですよ、抱っこをするくらいは。子供は嫌いじゃないですから。」
スンジョはしゃがんで、自分の子供とは知らずにスンハを抱き上げた。
「すみません・・・・父親の顔を知らないで育っている子供なので、父親に抱っこをしてもらったことがないんです。」
小さくて軽くて柔らかで・・・・自分を綺麗な瞳で見つめる顔がハニによく似ていて、なんだか不思議な感情が心の奥からあふれて来た。
「アッパ・・・・・だいしゅき。」
_____スンジョ君・・・・・・大好き_______
スンハはそのかわいらしい唇を、スンジョの唇にそっと触れた。
_______ハニ・・・・・・・_____
一瞬スンジョはスンハの唇が触れた時に、ハニが自分にキスをして来た時の感触を思い出した。
駅に向かう車が待つロータリーまで、スンハを抱いて行くと、スンハは嬉しそうな顔をした。
スンジョとは初めて会ったのだから、父親だと知らないはずではあるが、二人の顔が並ぶと何となく似ていた。
保育士にスンハを返して車に乗り込むと見送りの人の後ろから、職員にスンハがここにいる事を聞き追いかけて来たハニが姿を現した。
スンハを保育士から受け取った時に、車に乗っているスンジョに気付いた。
スンジョ君・・・・・・・・
強い雨の中、車が静かに走り出した。
スンジョは、スンハを抱いているハニに気付かない。
スンジョ君・・・・・・・スンジョ君・・・・・・
声に出して、呼びたい大好きな人の名前。
心で呼ぶハニの声が聞こえたのか、スンジョは振り向いた。
「ハニ?」
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2016.02.05 14:18
2016.02.05 05:51