言えない恋じゃないけれど(スア) 34
いつもにこやかに二人を迎え、双子たちはミナの仕事部屋に入った。
「今日はギルさんとキエさんはいないんですか?」
スングが珍しくギルの事を聞いた時、スアは何か気が付かれたのかとドキッとした。
今まで一度もキエどころかギルがいなくても何も気にしていないスングのその発言に、もしかしたら何か感ずいているのだろうかと思った。
「ギルはもう来ると思うわ。キエは定期検診に行ってから来るって聞いたから、一時間後くらいかな?」
何よ・・・・何を探るのよ・・・・・外泊したのがギルさんの部屋だって知っている人は誰もいないわ。
「キエは妊娠したのよ。ツワリが酷くて食べられないから、毎日病院に行って点滴しているの。」
ミナは自分の仕事用のパソコンとは違うもう一つのパソコンをスングに渡した。
スングがパソコンを操作している時、ギルが部屋の戸を開けて入って来た。
スアが振り返ると、ギルがスアの方を見てニコリと笑顔を向けた。
「トッコ・ミナ先生、作品の進行度はどうですか?」
「息子が母の仕事部屋に来た時くらい『母さん』と呼べばいいのに、本当にあんたは仕事的なんだから、だから・・・・・・ううん、今日は言わないわ・・・スアちゃんたちに何か飲み物を出してあげて。」
ハイハイと言ってギルはキッチンに向かった。
スーツで現れたギルは、一応仕事でミナの記事を書くために来ているが、ほとんどここで雑用をしているだけだ。
「スングはコーラだったよな。スアちゃんは・・・・何を飲むんだった?」
スアが何を飲むのか知っていたが、二人になるきっかけをギルは作っていた。
「私は・・・・紅茶・・・レモンの紅茶・・・・・」
「あれ?お袋、ミナちゃんが飲むレモンの紅茶が無いぞ。」
「本当?じゃあ買って来てあげて・・・それと何か食べるものも。」
どうしよう・・・・こういう時は・・・・
「ミナおばさん、私も付いて行っていいですか?」
「いいわよ。スアちゃんの好きな物を買ってもらってらっしゃい。」
「オレも荷物持ちに付いて行こうか?」
「いいわよ、二人もいれば・・・・・そんなに買うわけじゃないから。ギルさん行きましょっ!」
スングに知られていないよね。 でも、こんな事をしてゴメンね。
いつかスングにも私のこの気持ちはわかるから。
狭いマンションのエレベーターに二人きりだと、ギルさんの身体が近くて妙に緊張する。
緊張をしても少しでもいいから、ギルさんと二人でいる時間が欲しかった。
ミナおばさんの作品を見るよりも、ギルさんに会いたいから来ているような感じだけど・・・・・・・
スアのいつも飲むレモンの紅茶とちょっとした食べ物が売っている店は、ミナの仕事場から歩いて数分の所にある。
そこに行くまで長い足のギルに付いて歩くと、普通の人が掛る時間よりも早く着いてしまう。
それでも、こうして並んで歩くのはスアにしたら嬉しくて仕方がないが、ふと俯いて歩いているとギルの掌が目の前に現れた。
「手を繋ごうか・・・・・」
大きな手に恥ずかしそうに手を乗せると、ギルの大きな手がスアの細い手をしっかりと握った。
「ミニョンさんとも手を繋いだことがあるの?」
「ミニョンとは、手を繋いで歩いた事は無いな。外で一緒に歩いたら、スクープされるから、ミニョンのオフと重なった時は殆ど部屋の中で二人で過ごしていた。」
人に言えない恋愛をしていたギルは、スアとこうして歩いていると、ミニョンともこんな風に手を繋いで歩いたらまた違っていたかもしれないと思った。
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