言えない恋じゃないけれど(スア) 36
買い出しにギルとスアが一緒に行ってから30分以上が経っていた。
このマンションから出て数分の所に店があるのに、いったい何分かかってるんだよ。
______ガチャッ・・・・・
玄関のドアが開く音に振り向くと、入って来たのはスアではなくキエだった。
「オンマ、来たわよぉ~点滴で疲れちゃった・・・・・」
椅子から勢いよく立ちあがったスングを見て、一瞬驚いた顔をしたが直ぐにいつもの笑顔に戻っていた。
「久しぶりね。」
「はい・・・・大丈夫ですか?」
「大丈夫?・・・ああ・・ツワリね・・・点滴を打ったからね・・・吐き気も治まってきたから今日で最後。」
スングにとってキエは憧れの女性だった。
スアにも誰にも言った事はないが、小さいころから好きで初恋の相手がキエだ。
結婚した時は、家族の誰にも見られないように、部屋の掃除をすると言って泣きたい気持ちを押さえていた。
「いつ生まれるんですか?」
「予定日?11月22日・・・・・いい夫婦の日・・・・すっごい皮肉だよね。喧嘩ばかりしているのに。」
「うまく行ってないんですか?」
「どうなんだろうね・・・・・嫌いではないけど・・・・でも・・・」
「でも?」
「予定日から逆算していない?ペク家は天才だから計算も早いでしょ?」
「別にしていませんよ・・・・」
していないことはないけど・・・・・・あの頃にしたのかぁ・・・・って、オレもそういう事が気になる年になったんですよ。
「しばらく見ない間に、君もお父さんに似て来てカッコよくなったね。私が10歳若かったら、彼氏になって欲しいくらい。」
「冗談・・・・・」
冗談と言っても、本当は逆です。
オレの方が10歳年が今よりも上だったらどんなに良かったのかといつも考えてしまう。
「そう言えば・・・・スアちゃんって・・・一緒じゃないの?」
ここに来る前に見たのは間違いなくギルとスア。
双子の弟を見間違う訳もないが、いつもと二人の様子が違って見えた。
「スアはギルさんと買い出しに行きました。」
「どこへ?」
「多分マンション前の店だと思います。」
キエは辛いのか、スングに笑いかけるがふら付きながら近くの椅子に腰かけた。
「もしもね・・・・」
「はい?」
「スングの仲のいい女友達が、結婚もしていないし、する意志もない若い人たちはこんな時どうする?好きになった人に正式な妻ではなくて実は子供がいたんです・・・・て、言われたらどうする?」
「それはダメですね。一緒に暮らした人がいるのなら、うちではトラブルが嫌いなので、親父がきっと相手の素性を内緒で調べるでしょうね。」
他の人と置き換えても、スングにはその話が誰の事を言っているのかがなんとなく判っていた。
「遅いな・・・・何してるんだよ。」
時計を見れば、この部屋からスアがギルと出て行ってから1時間以上もかかっている。
いくら買い出しにしても、こうも何も言ってくれないのなら、二人の様子を観察しないといけないのではないかと思った。
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