あなたに逢いたくて 47
何度も何度も忘れようとしたスンジョを、人の影の隙間から見えた姿でも、間近で見ると、想いや涙を閉じ込めていたのが抑えきれなくなりそうだった。
いつもは記憶の中のスンジョと、たった一枚の写真を見て、スンジョとよく似ているスンハの寝顔を見て思い出に浸っていた。
スンハを抱いた時に着いたスンジョの残り香が、息をするのも苦しいほど、愛しい人の香りと温もりを思い出してしまう。
ハニが毎日見ていたのを知っていたのか、いつの間に引き出しから持って来ていた、スンハの鞄の中に入っていたたった一枚の写真。
二歳にもならないスンハは、自分の母と父とのことを、どこまで理解しているのか・・
それでもいつかは話さないといけない、母と父が一緒に暮らすことも無く会う事も出来ない事情を。
どんなに好きでも、全てをかけて愛しても離れなければならなかった二人の事を。
無垢な娘が自分を見つめる瞳は、自分だけを愛し微笑んでくれたあの人とよく似ていて、何度も流れそうになる涙をこらえた。
ハニは、幼いスンハに判らなくても自分達の事を少しだけ話した。
判るはずなどないのに、ただ自分の中に閉じ込めた大好きなスンジョの事を。
スンハのアッパには、アッパにお似合いな奥さんがいて、幸せに暮らしているからオンマとスンハがアッパの前に行く事は出来ない。
アッパはスンが産まれている事を知らないからもう会うことはないのだと。
スンジョの姿をウファ大学のロータリーで見かけた日から一週間が経った。
島に戻ってからのハニは、スンジョの再会をした事を忘れようと、ジョンスと一緒に巡回に行ったりして忙しくしていた。
薬の配達に出かけたり、スンハの世話をしながら近くの具合の悪い患者の食事の準備に行ったりと、休む暇なく我武者羅に働いている様子に、ジョンスは心配をしていた。
「ハニさん・・・・この間、半島に行ってから働きすぎですけど何か有ったのですか?」
他人から見れば働きすぎと言われるくらい働いても、時間が少しでも空くとスンジョ思いだしてしまう。
ジョンスは巡回の帰りに少し小高い船着場の見える丘の岩に腰を下ろして、ハニに島に行った時に何があったのかを聞いた。
「スンハちゃんを怒らないでくださいね。ハニさんの御主人は、もしかしたら生きていらっしゃるのじゃないですか?」
「えっ?」
「スンハちゃんが、半島から帰って来てから、いつも持っている鞄から写真を出しては、そこに写っている人に<アッパ・・・・アッパ・・・・>と言っているのをよく聞きます。それまではそんな風に言う子供ではなかったので、気になっていたんですけど。僕に話してくれませんか?苦しみや悲しみは一人で悩むより他の人に聞いてもらって、半分にするものですよ。」
友達のようであり、時には兄のように接するジョンスは、どんな時も無理に聞きだすような事はしなかった。
「会ったんです・・・・ううん・・・・姿を見かけたんです・・・・・・。キム先生の言うとおり、スンハの父親は生きているんです。でも・・・・スンハを彼に会わせる事は出来ないの。」
「どうして会わせないのですか?スンハちゃんの父親でしょ?」
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