あなたに逢いたくて 48
「彼は他の女性と婚約したんです。会社のために・・・・・・・・」
「ハニさんという女性がいながらですか?それにスンハちゃんを妊娠していたことを知っていたのに、ハニさんを捨てて他の女性と婚約したのですか?」
ハニは目を瞑って、首を横に振った。
「それは違います。彼と別れた後に妊娠している事を知ったんです。だから、彼も勿論ですが彼のご両親も誰も、私が妊娠したことを知らないんです。スンハが産まれたことも知らせませんでした・・・・・・どうしても彼の子供を産みたくて・・・・でも、もし彼がこのことを知ったら、きっと責任感が強い彼だから、会社の為のお見合いでも、その女性と私のことで悩むと思って何も知らせないでこの島に来たんです。私たちはお互いに愛し合っていて、大学を出たら結婚するつもりで付き合っていた、その思い出だけでも私は幸せ。他の人からしたら、彼は何の取り柄もない私を捨てて、彼とお似合いで財産も名誉もある美人で頭のいい女性を選んだと思ったと思います。そんなふうに見られて欲しくないから、彼にはいつも堂々としていて欲しいんです。私とスンハが彼の前に出て、彼の家庭を壊したくないし、過去の恋愛を思い出して後ろを振り向いたりしないで、ずっと前を向いて欲しいんです。」
そんな話をするハニの顔は、淋しげでもあるけれどスンジョの事を思ていると幸せそうにも見えた。
ジョンスはそんなハニが、軽い羽のように飛んで行きそうで儚げに見えた。
いつも明るい笑顔で、診療所に来ている島のお年寄りと話をしているハニとは違う、過去の思い出とスンハを心の支えにして毎日を過ごしているように思えた。
「看護師の試験会場はパラン大学なんです。私がこの島に来るまで在籍していた大学・・・・パラン大学に行ったらこっそり物陰から彼を見て、スンハに彼が父親だって教えたいと思ってたのに、少し早かった・・・・スンハが彼と出会うのが。」
「どこかで、スンハちゃんと彼の親子と言う血が引き寄せたのですね。」
そうかな・・・・・・・
結局、私はスンジョ君の事を諦めることが出来ないことが判った。
スンジョ君がヘラと結婚して、幸せに暮らしているのだから諦めないといけないのに。
「ちょっとだけいいよね、スンハと彼の姿を見に行っても。」
「そうですね。スンハちゃんだって、父親の姿を見ても大きくなる頃には忘れてしまうかもしれないですし、この島の診療所にいたらソウルにはそんなに行くこともないですからね。」
ジョンスにスンジョの事を話したら、ずっと胸に仕えていたものが取れたようでなんだか心が軽くなったような気がした。
いつも優しく見守るようにして見ていてくれていることに甘えそうで、彼の気持ちに応えることが出来ないことを申し訳なく思っていた。
ギミの言うとおりにジョンスとの結婚を一瞬考えたが、スンジョ以外愛せない自分が彼と結婚してもみんなが不幸になることは判っている。
だから、ジョンスの思いに応えられなかった。
毎日、ジョンスと一緒に巡回に行き家に帰っても同じ屋根の下で食事をして話をして生活をしていると、情が湧いてきていた。
スンジョの姿を見かけなかったら、もしかしてジョンスとの結婚も考えたかもしれないが、一時の感情でギミに言われるまま結婚をして、優しいジョンスをスンハの為に利用しないようにしようと思った。
来週に行われる看護師の国家試験は、自分のためでもあるが、勉強に協力してくれたジョンスや、ギミそれに島の人たちのためにも絶対に合格をしようと思っていた。
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