あなたに逢いたくて 49
「キム先生、ハニとスンハを頼んだよ。あんたは二人の主治医と同じなんだから。」
今日は看護師の試験のために島を出てソウルに向かう日だ。
まだ幼いスンハも一緒に行く為、試験日より二日早く島を出発することになった。
「任せてください、ギミさん。実家の父にも何か遭ったときの対応は頼んであります。」
ジョンスはハニの試験に合わせて休暇を取り、一緒にソウルに向かうことになっていた。
「おばあちゃん、行って来ます。」
「ばあたん、行って来ましゅぅ。」
「ああ、気をつけて行くんだよ。ハニ、お前は時々大事な時に失敗をする子だから、この日のために頑張ったことを忘れないで自信を持ってやるんだよ。スンハ、おじいちゃんに会ったら美味しいククスを作ってもらって沢山食べてくるんだよ。」
スンハは初めて祖父であるギドンと逢うのを、ずっと楽しみにしていた。
いつも電話口で聞く、<スンハに会いたい>と言う言葉を聞いて、スンハもギドンに会いたいとずっと言っていた。
船は三人を乗せて半島の港に向かって、静かに桟橋を離れた。
ソウルを出てから二年。
島に来るときはまだスンハもお腹の中にいて、未婚のままで出産をする決意をしたものの、これからの生活に不安が沢山あった。
今では、島の人々にも可愛がられていても、田舎でこれから大きくなって行くスンハニとって、幼稚園や学校と同年代の子供がいない事に不便ではあるが、それなりの平穏な暮らしにすっかりと馴染んでいた。
島から半島まで船に乗っている所要時間は一時間。
そこからバスでソウル行きの電車に乗れる駅までは一時間。
電車に乗ってからまた一時間。
スンハは初めて乗る電車に興奮することもなく、車窓を大人しく眺めていた。
「キム先生、ソウルの駅には私の友人のミナとジュリそれにジュングが迎えに来てくれています。駅から父のお店までは20分ほどで着くと思いますが、ご実家に戻る前に父の自慢のククスを食べて行ってもらえますか?それとは別に、父はきっと不落粥も用意していると思うんです。」
「不落粥?」
不落粥・・・・・ハニが大学に進学する時に、父ギドンが考えた深夜に受験勉強をした時などに夜食として食べても胃もたれをしないでいられ、疲労回復効果もある食材を入れて作ったお粥。
その後、口コミでこのお粥を食べると希望する学校に合格するという噂が広がり受験シーズンは臨時にバイトを頼むほどだった。
「僕が一緒に行っても、いいんですか?」
「父に、キム先生に私がいつもお世話になっていることを言ったら、お礼をしたいと言ってたんです。」
そんな事にも照れたように顔を赤らめるジョンスを見ていると、ハニは心が落ち着いて幸せな気持ちになった。
ソウルの駅は、二年前と変わらず人の流れは速く、人々は忙しく歩いていた。
三人で改札を出ると、ハニは迎えに来ているはずの、ミナ達の姿を探した。
ハニに抱かれているスンハは、島と違い活気溢れた人々に、目をキラキラさせて眺めている。
「ハニ!」「ハニや~」
名前を呼ばれた方を見ると、そこには懐かしいミナ達が手を振っていた。
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