言えない恋じゃないけれど(スア) 38
目を見開いているスングにキエはクスッと笑った。
「初めてだったんだ・・・・・・」
「からかわないでください・・・・・それにキスくらい・・・・」
キスくらいと言ったものの事実初めてだったし、いつも分のそばにはスアがいたから女の子には興味が無かった。 女の子には・・・・・・ずっとキエさんが好きだったから、同年齢の女の子はガキっぽくて。
キエさんが結婚したと聞いた時もショックだったし、子供が出来たと聞いてからは、自分の初恋は終わったと思った。
「ごめんねぇ~最近妊娠しているせいか、性欲が強くなったみたい・・・・・スングの唇って綺麗だからキスしたくなっちゃった。」
「旦那さんと・・・・旦那さんとすればいいじゃないですか。」
「だって・・あの人はタバコ臭くって・・・・若い男の子の唇に飢えていたのかも。気にしないでね、深い意味はないから。」
キエさんにそう言われても、どうしていいのか判らない。
マンション前で立っていると直ぐにタクシーが停まり、さっきのキスがあるから気まずくて送って行くのが戸惑われたが、時々吐き気のせいでフラフラとしているキエを一人で帰す気持ちにもならなかった。
「そこの前で・・・・・・スング、タクシー代・・・足りるよね?」
キエがタクシー代をスングの前に出すと、それを強く押し返した。
「運転手さん、ここで清算してください。」
「スング・・・」
「部屋まで送って行きます。ここからはバスで帰りますから。」
高校生の子供と言っても背はキエよりも20センチ近くも高い。
身体が細くても、ふら付いている女性を支える力はある。
「何階ですか?」
「12階・・・旦那がいないから部屋に上がって行く?下心は無いから気にしないで・・・・」
「いえ・・・・部屋に入るのを見届けたら帰ります。」
さすがに部屋には上がれない。 からかわれたようなキスでも、スングにしたら自分の諦めた初恋の人への思いが戻ってきてしまった。
部屋に入れば報われない事でも、わずかでも期待をしてしまう。
「ここ・・・・・・休むから、心配しなくてもいいわ。今度はスアと遊びに来てね。」
重い扉を閉まらないように押さえて、キエが中に入るのを見届けた。
玄関先には、キエと違う男性の靴がきちんと置かれている。
それが現実で、どうにもならない事だとはっきりと言っているように見える。
「あの・・・・・少しだけ・・居てもいいですか?」
居てはいけないという別の心の声も聞こえるが、居たいと言う思いの方が大きかった。
キエの夫のスリッパの横に来客用のスリッパが置かれ、キエに続いて部屋に上がって行った。
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