言えない恋じゃないけれど(スア) 39
「ただいま・・・・・・」
「お帰り・・・・あら?スングと一緒に帰って来なかったの?」
「うん・・・スングはまだなの?私より先にミナおばさんの所を出たんだけど。」
オンマが背中を向けているから、私の顔を見られなくても済んだけど、それにしてもスングは随分前にキエさんを送るって言って出たのに、私よりも先に家に帰ったはずなのに何をしているんだろう。
「お茶でも飲む?」
「うん・・・・着替えて来るね。」
二階に上がって自分の部屋に行く前に、スングの部屋の前でスアは立ち止まった。
兄弟の多い自分たちは、兄や姉が独立して出てから初めて一人の部屋を貰った。
スアの部屋はハニが使っていた部屋、スングの部屋は両親が新婚当時からしばらく使っていた部屋。
一番下の兄のスンギが家を出るまでは二人一緒の部屋だった。
「大きくなったから、部屋を別にしようね。」
母からそう言われた時、スアとスングは離れるのが寂しいと言って泣いた。
スアは自分の部屋に入り、鏡で自分の顔を見た。
「大丈夫・・・・オンマは気が付かない。」
買い物に行った帰りに乗ったエレベーターの中で初めてのキスをした。
私がせがんだからしてくれたキス。
ギルさんと初めてしたキスだけど、私自身生まれて初めての大人のキス。
震えている私に、優しくしてくれた。
「ごめん!オレ、タバコ吸うから臭かっただろ?」
顔を離した時ギルさんの目を見られなかったけど、恥ずかしくて顔を上げる勇気がないのに平気な振りをした。
「気にならない・・・・」
好きな人だから気にならない。
ギルさんが大人だと判るくらいに、キスが上手だった。
ミニョンさんと何度もしたのだと思うと悲しいけれど、それでも今は私だけのギルさん。
ミナおばさんの部屋に戻った時に、スングが『遅い!何をしていたんだ!』と怒鳴ったけど、今はスングがキエさんと何をしているのと聞きたい。
キエさんは結婚しているんだよ。 それに、お腹に赤ちゃんもいるの。
スングがずっとキエさんが好きで、ミナおばさんの所に一緒に行くと言っているのを私は知っている。
私は知っているけど、スングは自分の気持ちを誰にも気が付かれていないと思っている。
スングがハニと話している声が聞こえると、スアはそっと部屋のドアを開けた。
階段を上がってくるスングは、いつもと違い気持ちがどこかに行っているように顔が少し赤くなっているように見えた。
初めてギルとキスをしてから、ギルの仕事や出張で会う機会がなく、スアがギルと本格的に恋人として付き合う事になったのは、高校三年に上がってひと月が過ぎた頃だった。
0コメント