言えない恋じゃないけれど(スア) 44
私の勝手な想いから始まった付き合い。
ギルさんと恋人になる事は無い事も判っていたけど、わずかな期待は持っていた。
「ねえ・・ギルさん・・・」
「ん?」
在宅で記事を仕上げているギルさんにコーヒーを出していると、なんだか新婚夫婦のように思えた。 「恋人なら・・・・ギルって呼んでもいい?」
「いいよ・・・・」
あっさりと答えたから、ちょっと寂しい気がした。
仕方がない、私の事を好きだと言ってくれても妹としか見てくれていないから。
「その指輪って・・・・・・」
「指輪?」
サッと隠そうとしたけど、ギルさんの右手薬指に光る指輪は、この間会った時に同じ物をミニョンさんはしていた。
「ペアリングでしょ?」
「長いことはめていたから、外すのを忘れていたよ。」
ギルはその指輪を外そうとするが、外すことが出来ない。 それは、外せないのではなく外す意思が無くて外せないだけ。
「ごめん、不規則な生活で肥ったみたいだ。痩せたら外すよ。」
誰が見ても判るような嘘をギルは吐いている。
ミニョンと別れた頃から痩せ初めて、この間再会した後からアルコールの量が増えていた。
「あのね、ギル・・・・・少し相談に乗ってくれるかな・・・・・・」
「ん~~~いいよ。」
あまり私の顔を見てくれないギルにチョッと不満はあるけど、沢山は望んじゃいけない。
「進路の事だけど・・・・・」
「それはオレに相談をするのじゃなくて、自分の親に相談するべきじゃないか?」
そう言われるとは思っていた。
「ペク家ってね、本人の意思を尊重してくれるの・・・・・・」
「なら、スアの行きたい方向に行けばいいと思うよ。スアは頭もいいし、とんでもない事をしようとする子じゃないだろ?」
「うん、まぁ・・・・」
ギルの気のない返事に話したくても話すことが出来ず、思わずため息を吐いてしまった。
「ごめん・・・スア・・・今日はスアと話が出来ない。」
「忙しそうだものね。」
「お袋が仕事を辞めるんだ。」
永年ウェブ漫画や、女子学生対象の恋愛相談のコラムをミナは書いていた。
「おばさん、辞めちゃうの?」
「年齢も年齢だけど、キエが子供を生むだろ?ミニョクの事もあったから・・・・・・初孫を楽しみにしているんだ。」
そうなんだ・・・・・ おばさんの漫画も面白かったし、相談コラムすごく良かったのに。
「その最後のインタビュー記事の締め切りが遅れていて・・・・」
ギルはそればかりではなかった。
ミニョンを忘れて、スアの想いを受け入れようかといつも悩んでいた。
スアの時々見せる表情がミニョンと重なってしまい、いけない事だがスアをミニョンの代わりにしてしまおうかと思った時もあった。
「ごはん・・・・出来たから・・・・・・」
「置いておいて・・・・・・」
「温かいうちに食べて・・・・・・」
新婚カップルのような会話はよくしていたが、原稿の締め切りばかりではなくどこか様子の違うギルに、スアは気持ちが抑えられなくなった。
「今日泊まって行ってもいい?」
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