言えない恋じゃないけれど(スア) 48
泣かない
私は泣かない子だから
絶対に泣かない
スアは目に涙が浮かぶのが自分でも判るが、必死に流れないように耐えていた。
キャリーバックを持ち上げて、門を開けて階段の上の玄関ポーチを見上げた。
リビングの灯りがいつもよりも明るく、涙をこらえているからなのかキラキラして見える。
口角をキュッと上げて、いつもの笑顔を作った。
「ただいまぁ~」
「お帰り。スア、友達の家に泊まって来るのじゃなかったの?」
「喧嘩しちゃった・・・・あれ?オンマは?」
アッパはいないことは判っていた。 ミニョンさんのことがあるから、きっとアッパに病院から連絡が来ているはずだから。
「なんだかね・・・よく判らないけど、ミナおばさんの所に赤ちゃんが生れそうだからと連絡があって、アッパが行った時にオンマも付いて行ったの。病院にはスンハがいるから大丈夫なのにね・・・・キエちゃんの予定日はまだずっと先なのに・・って聞いたら、ギル君の赤ちゃんだって。」
「そう・・・・」
平気な振りをして応えたけど、平気ではいられなかった。
ギルのあの心配そうな顔を初めて見た時、私の運命の相手はギルではないとはっきり判った。
おばあちゃんが背中を向けていなかったら、今の私の顔を見たらきっと何か気が付いてしまうかもしれない。
「ミニョンって言う女優さんと結婚していないけど、赤ちゃんが生れるってオンマから聞いてビックリしたわ。」
ズルッ おばあちゃんが言った事を聞いたら、出そうになった鼻水を吸ってしまった。
「風邪を引いたのかしら・・・・・スア・・」
驚いた祖母の顔を見て、スアは鼻水どころか涙も流していた事を知った。
「何があったの?何かされたの?」
首を振ると涙が飛ぶのが見える。
「何もされていない・・・・・・失恋・・・・しちゃった・・・・・」
「まぁ・・・・誰に・・もしかして・・・ギル君?」
両手で顔を覆って泣くスアの背中を押して、リビングのソファーに座らせた。
暫く泣いたスアは、グミに抱き付いた。
「私ね、ギルの気持ちを知っていたの。知らない振りをして・・・・・おばあちゃんと同じように高校を出たらギルと結婚がしたかった・・・・大学に行っても、将来何かをやりたいとは思ったこともなかったし・・・・結婚をして、家で美味しいご飯を作ったり掃除をしたり・・・ギルが家に帰って来たらお帰りって・・言いたかった。ギルがミニョンさんと別れたのは、前に生まれた赤ちゃんが亡くなったからだと思ってたけど・・・違うの。ミニョンさんの活躍を願っていたから・・・・・・」
「10年早く生れていたら・・・・・そう思っていたのでしょう・・・でもね、運命って何年前に生れていたらとか、あと何年後に生れたらって・・・それは違うの。生まれる前から決まっていたのよ。あなたのアッパとオンマのように、決まっていたから遠回りしても巡り会えた。スアの運命の人は、きっとまだ他にいるのよ。」
泣いていたからか、寝付けなくてカーテンから漏れる月灯りを見ていた時に、メールが届いた。
生れたよ、男の子だ。
まだ、ミニョンは麻酔から覚めないけど、覚めたらミニョンと子供の籍を入れる事を伝える。
ゴメン、スア。
からかっていたわけじゃない。
スアがいてくれたおかげで、荒れた生活をしないで済んだ。
あんなに泣いていたのが嘘みたいに、ギルからのメールを見て二人を祝福できる気持になれた。
0コメント