言えない恋じゃないけれど(スア) 50
「ただいまぁ~」
スア、帰って来たのか・・・・友達の家に泊まって来ると言っていたのに。
スングは特に何も考えることなく、ベッドから起き上がって部屋を出た。
両親が病院に向かった後は、ひっそりとしていたリビングが、スアと祖母が話している声がその空間を明るくした。
「喧嘩しちゃった・・・・・オンマは?」
無理に明るくしていようとしているスアの話し方は、双子のスングにはスアが本当は大きな声で泣きたいのだと判る。
階段を一段降りかけた時、スアが大きく鼻をすすった。
やっぱり泣いているんだ。 友達の所に泊まると言うのは嘘だろう。
スアはそこまで親しい友人はいない事は、オレには判っていたから。
「失恋しちゃった・・・・・・・」
スアの初めて聞く泣き声ではないけれど、取り乱さないように必死に堪えているのが伝わって来る。
スングがキエを初めて好きになった人と同じで、スアにしたらギルは初恋の相手。
失恋したと言って泣いているスアと、励ましている祖母の会話。
いつも自分に相談していたスアが、自分以外の人に相談することが少し寂しい気もしたが、これからはこういうふうに少しずつ離れて大人になって行くのだろう。
夢中で本を読んでいたら、時間が経っていたのに気が付かなかった・・・・・・・
深夜に風呂に入る気持ちになれないから、シャワーでも浴びて寝るか・・・・・・
スングは大きく伸びをして、机の上に伏せておいたスマホを手にした。
「あれ?メールが来てたのか・・・・・・キエさんだ・・・・」
ギルとミニョンさんの子供が生まれたの。
きっとスアちゃんにも連絡が行っていると思うのだけど、ギルからスアちゃんとの事を聞いて、もしかしたら泣いているのじゃないかしら。
スアちゃんはギルの事がずっと好きだったから、まさか結婚もしていないのに子供が生まれた事を知ってショックを受けていると思うから慰めてあげて。
キエさんからは聞いていた。
ギルさんは別れたとは言っても、ずっとミニョンさんの事が好きだと。
なぜ別れたのかはキエさんも教えてくれなかったけど、他に目が行かないほどにギルさんに心が向いているスアには何を言っても無駄だから。
着替えを持って部屋を出ると、バルコニーにスアが立っていた。
長い絹のように細い栗色の髪は、母譲りでスングは好きだ。
ギルと付き合い始めてから、髪の毛を丁寧に洗って肌の手入れまでするようになった。
それまでは、無造作に三つ編みにして顔を洗ってもクリームも付けていなかった。
一人の男性(ひと)を女の子が好きになると、こんなに綺麗になるのかと思うくらいに輝いていた。
「よぅ!眠れないのか?」
ビックリして飛び上がりそうなくらいに驚いた顔をして振り向いた。
「何を驚いてるんだよ。」
「アッパの声にそっくりだったから。」
「親子だからな・・・・寝ないのか?」
何も言わずまた空を見上げるスアの頬に涙の痕があった。
「生れた時から一緒だから、スアの考えていることは判るよ。お父さんとお母さんにとって、オレ達は遅く生まれた子だし上にいる姉さんや兄さんたち、特にスンギ兄さんが世話をしてくれたから楽な子だったと思う。上の兄妹が結婚して家を出て行った今は、オレに悩みを話せよ。」
「知ってるんでしょ?」
「何が?」
「ギルさんの事・・・・・・・知らないはずないよね。スングはキエさんと付き合っているんだから。」
「どうして・・・・・・」
「私たち双子だよ・・・・・でもスングはキエさんと付き合っちゃダメでしょう。キエさんは結婚しているし、もうすぐ赤ちゃんが生れるのだから。」
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